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David Roberts @渋谷クワトロ



 ライブに行く前は、いつも少し緊張する。しかし今回は、それとは違っている気がした。ワクワクしたいんだけど、どうもいまひとつそんな気分になりきれない…。頭の中の片隅で、こんな声が聞こえてくるからだ。「David Robertsが日本でライブするなんて、ありえない」。クワトロにいったところで、係の人に「いや、知らないよ。誰かに騙されたんじゃないの?」と言われてしまいそうな気がしてならないのだ。


 そんな半信半疑な心持のまま、本日、「AOR奥様」の相方であるあゆさんと渋谷のハチ公前で待ち合わせして会場を訪れた。会場は18時で、開演は19時。18時を少し過ぎた頃に到着したが、すでに大勢の客が中に入っていた。入り口には、大きくDavid Robertsの「All dressed up」のジャケット写真をあしらったポスターが貼ってあった。これを見て、私はやっと安心した。どうやら本当に、David Robertsは今夜このライブハウスに出演するようだ。


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 私がここまで疑ったのも、実は無理のない話で。David Robertsは、今から約25年前にデビューアルバムの「All dressed up」を発表したが、これが大変な話題となった。全てオリジナル曲だったが、いずれも極めてクオリティが高く、彼のソングライターとしての能力を強烈にアピールしていた。ダイアナ・ロスなど有名アーティストは、彼の曲に魅了され、次々とこの中の曲をカバーし始めた。しかも、バックバンドは当時トップレベルの売れっ子だったTOTOのメンバーなのだから、AORファンが熱狂しないわけがない。


 誰もがセカンドアルバムを待ち望んでいたが、彼はそれっきり表舞台での活動をやめて、裏方に回ってしまった。一説によると、彼は、自分のソングライティング能力を存分にデモンストレーションする目的で「All Dressed Up」を作った。その結果、彼の思惑通り、ソングメーカーとしての地位を確立できたのだという。私もその噂を信じ、納得した。彼の目的がそこにあったのなら、しょうがない。これからは彼の作る作品を、他のアーティストの歌声で楽しもうと。


 それから、25年間が経過した。一昨年、その「All Dressed Up」がCDで再販されると聞き、大喜びして買ったエピソードは、この日記の過去ログにもある。ひさしぶりにDavidの歌声に触れ、私にとってのAORのイメージって、やっぱりこの世界だなあと再認識した次第。


 とまあ、Davidに関してはこんなテンションのままで25年を過ごしたのだから、突然「日本でライブする、新譜もでる」なんて聞かされても、すぐに信じるわけにはいかなかった。昨夜クラブクアトロに入り、テーブルについてあゆさんとAOR奥様の収録をしながら「あそこに座っているのは、あれは木村カエラちゃんでは!?」と盛り上がったりしているときも、Davidに関してはどこか他人事だった。だいたい、映像ですらDavidを見たことがないのだ。彼が歌うどころか、生きて動いているなんてこと、想像だってできやしない。


 ところが、これが本当だったのだ。19時になり、会場の照明が落ちてステージが明るくなったそのとき、David Robertsその人がステージの上に現れた。想像したよりずっと小柄で、どこかノーブルな雰囲気漂うその風貌を見ても、なかなかピンとこなかったが、「All Dressed Up」の一曲目「All In The Name Of Love」のイントロが始まった途端、一気に体温が上がり、鳥肌がたった。歌い始めたその声は、まさにアルバムのままの声。そこに25年という月日を感じさせる要素は何もなかった。会場の客も、一気にヒートアップ。はじめてお会いしたとは思えない一体感が生まれていた。


 そのあとDavidは、新譜「The Missing Years」(とても皮肉なタイトル…)や「Better late than never」(これも皮肉?)の曲を含め本ステージが13曲、アンコール2回で3曲と、全16曲(最後のアンコールは、再度All In The Name Of Loveだった!)を見事にやりきった。「All dressed up」からは、ほかに「Midnight Rendezvous」と「Boys Of Autumn」、「Someone Like You」をやった。どれも私がやってほしかった曲なので、大満足だ。


 これまであまりライブをやっていなかったせいか、キャリアのわりに彼の表情やトークがとても初々しくて驚いた。ルックスも若々しくて、とても50歳には見えない。スーパーバイザーの金澤さんは「30代にしか見えない」といっていたが、本当にその通りだった。観客は、みんなとてもいい雰囲気だった。Davidと観客の温かいつながりが感じられる、とてもいいライブだったと思う。ステージの最後に、彼は「See you next year!」と言った。それは、来日ミュージシャンがよくやるサービストークではなく、本当に彼がそうしたいと願って発した言葉のように聞こえた。きっと、本当にそうなのだろう。


 ところで、実はこの日、金澤さんに許可をもらって「AOR奥様」初の外録に挑戦した。持っていった機材は、R-09のみ。正直心配だったが、あとで聞いてみると、とてもクリアな音に録れていてほっとした。会場の様子や金澤さんからのコメント、ライブ後の感想などをしっかり録音してきたので、どうぞお楽しみに!



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