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初めてのお客様は、カメラマンの大橋さん



 今日、新事務所に初めてのお客様が訪れた。カメラマンの大橋さんだ。大橋さんは、事務所を移転したことは全くご存知なく、たまたま近くに来たので挨拶に行こうと思い立ったそうだ。「ええ、僕が初めての客ですかー」と大変驚かれた様子だったが、運命とは、えてしてそういうものなのだ。


 お話しながら、大橋さんのこれまでの作品を、改めてしっかり見せていただいた。食にこだわる彼らしく、料理屋のメニューから素材まで、実にさまざまな「食べ物」を撮影していた。


 なかでも一番インパクトがあったのは、ピーマンの写真。緑のピーマンが、時間が経つにつれ赤くなり、やがて芽が出るまでの変化を撮影している作品をみて、今さらのように「そうか、ピーマンは種だったんだ」と気づいた。そこで、もうひとつのことに気づいた。彼がこだわっているのは、食というより、命だ。それも、静かにひっそりと息づいている命だ。誰にも気づかれないけれど、ピーマンは赤く熟し、やがて枯れ葉の上に落ちて、腐葉土から栄養をもらいながら、新しい生命を生み出していく。誰も気づかない、この生命の営みを、彼は写真という作品の中に記した。


 大橋さんは、「こういう時代、きた仕事はなんでも請けるべきだと思うけれど、やっぱり自分は自分らしいものを撮り続けたい」という。カメラマンは特に、自分の中に一本筋を通していかなければ、続けていけない仕事なのだそうだ。でも私は、それはカメラマンに限ったことではないと思った。