電子書籍出版業を、実はもう6年もやっている。この業界でも、おそらく相当の老舗だろう。当時、電子書籍の出版社は、まだ片手ほどしか存在していなかった。その中で、あえてマイカが手を挙げたのは、よく言われるように「未来を予見していたから」ではない。
6年前、凸版印刷から「あなたの本を電子書籍にしませんか」と声をかけられ、「どうぞどうぞ」と何の気なしに承諾したところ、この本が意外なほどよく売れた。この数字に気を良くして「電子書籍って、いけるんじゃないの?」と思ったことが、そもそものきっかけである。…いささか現金な理由で恐縮だが、実際そうだったのだから仕方がない。
当時、電子書籍を読むデバイスといえば、パソコンかPDAだった。まだ携帯電話で読むというスタイルは、確立されていなかったように記憶している。電子書籍を始めるにあたり、私は電子書籍を読むスタイルについて考えた。パソコンで読む人が多いと聞いていたが、パソコンの画面に向かって本をよむのは、あまり現実的ではないという気がした。ふたを開けてみれば、案の定、パソコン読者はほとんどがグラビアを買っていて、テキストを読む読者はほとんどいなかった。グラビアなら、まぁパソコンで見るのがいいだろう。きれいなお姉さんの水着姿は、画面が大きいほうがいい。
ならばテキストは、どうやって読むのだろう。当時、凸版印刷の電子書籍売り場(今のビットウェイブックス)では、PC版とPDA版が販売されていた(ちなみに、今はどうだろうと見てみたところ、現在もPC版とPDA版が販売されている。今、PDAで本を読む人はどれぐらいいるのだろう…?)。それで、私はこう思った。なるほど、文字を読みたい人は、PDAで読むのだな、と。
まだその頃は、PDA市場が存在していて、ザウルスやPalm、WindowsCEを持っている人も多かった。ビットウェイブックスのPDA版は、きっとこういうユーザーが購入していたのだと思う。私も、当時Palmを使っていたので、よくダウンロード購入しては読んでいた。Palmなら、PCの画面より本が読みやすい。また、いつでも携帯できるので、移動時間などのスキマ時間を利用して読書することができるのも嬉しかった。
そういえば、当時モバイルプレスという雑誌は、青空文庫のテキストデータをまるごとCD-ROMに収録するというおまけをつけていた。これをすべてSDカードに読み込ませれば、一生かかっても読みつくせないほどの本がザウルスに入るという提案は、とても魅力的だと思ったし、実際それを実行していた。いつでも好きなだけ本が読めるという贅沢感は、私のような本好きにはたまらなかった。
しかし残念ながら、その後、PDA市場はどんどん縮小し、それとともにPDAユーザーも減少していった。外出先で電子書籍を読むにはどうすればいいのだろうと思っていたら、携帯電話がそれにとって代わった。あの小さな画面で読むのはさぞ大変だろうと思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。普段からケータイメールを読みなれていた若年層は、逆に「ケータイのほうが読みやすい」そうで、いつの間にか電子書籍市場のメインストリームはケータイユーザーになった。それとともに、電子書籍市場もどんどん拡大していった。
…と、長くなりそうなので、本日はここまで。この続きは、明日書きます。
最後に、本日発売のiPhone用電子書籍、新刊案内をば。
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