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100個の蝉の抜け殻

 「今年は、特に蝉の抜け殻が多かとよ」と、電話で父が言った。「100個でん、見つかるけん」と聞き、うっかり100個の蝉の抜け殻を想像してしまった。蝉は嫌いではないが、それだけあると思うと、さすがにあまり気持ちよくはない。

 息子が小さいときは、夏といえば蝉だった。夏休みになると、息子は朝早くから虫取り網を持って家を飛び出し、昼過ぎには虫かごを蝉でいっぱいにして、夕方にはその蝉たちを空に放っていた。釣りでいえば、キャッチ&リリースだ。毎日毎日、飽きることなくそれを繰り返していた。

 そんな息子も、今や一児の父だ。先週末は久しぶりに桑名に戻り、やっと妻と子どもを自分の父親に引き合わせた。長年、いろいろ複雑な思いを重ねてきた父と息子だったが、赤ん坊を交互に抱いたりしながら、ひっそりと心通わせることもあったようだ。その瞬間を目撃した娘から「本当に嬉しそうだった」という報告を聞き、私も心底ほっとした。やっぱり、新しい命の存在は偉大だ。つまらない大人の確執など、ふっとばしてしまうのだから。

 写真は、先日、買い物を終えて家に戻ってきたとき、家の前の道路に落ちていた蝉の抜け殻。こんな都会で蝉の抜け殻に出会えるなんてと思ったが、考えてみれば朝な夕なに蝉の声を聞いているのだから、抜け殻が落ちていたってさほど不思議ではない。

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