おめでとう、子供たち。
15
「それで……叔父さんに聞かれて、タカコさん、なんて答えたの?」
タカコさんは肩をすくめた。
「あたしの作った料理はあんまり食べやがらねぇ、でも生きてるって」
耕治はため息をついた。
「それだけ?」
「信用しないの?」
「する」
タカコさんはそれを聞いてにこりと笑った。
その微笑をみつめるうち、唇の端にむずむずとしたものを感じ、気がつくと耕治は笑い返していた。
なんとも、変わった人だった。家の中に他人が入るということで、最初は耕治も弘美も、大反対していたのだ。それが、いつのまにかそんな声も立ち消えになってしまった。
ひとつには、タカコさんの性格もあるのだろう。説教臭いことは、まず言ってこない。伊丹叔父が裏で糸をひいて、カウンセリングじみたことをやりだすのかとも思ったが、そんな様子もかけらもない。学校に行け、なんてセリフは、タカコさんから聞いたこともない。毎日、のろのろと昼過ぎに置き出してくる耕治をしかるでもなく、自分の仕事だけをきちっとこなしている。その鷹揚なところが受けたのだろう。あれだけ反対していた弘美も、いつのまにか懐いている始末だ。
「タカコさんは学校、好きだった?」
唐突にそう尋ねると、タカコさんは困ったように、フォークをもった手で頭を掻いた。
「さぁねぇ、途中までしか行ってないから」
「途中でやめたってことはキライだったってことじゃないの」
「いんや、外で勉強することが山ほどでてきたからだよ」
「おれが勉強する場所ってどこにあるのかな」
「さぁ、それはあんたしかしらない」
聞き返そうとした耕治を、タカコさんは手で制した。
「聞いてごらん。雨が降ってきたよ。洗濯物とりこまなきゃ」
つづく…
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