その猿を初めて見たのは、小学生の夏だった。「振り返って見ろ」という声を聞いて振り向くと、雲の中からビルの屋上に向けて一本の紐が垂れ下がり、その紐を伝って上から何匹もの猿が降りてきた。
「おい、あれは何だ!」というと、その声に友達が振り返り、「あれって何?」と返した。どうやらその猿は、僕にしか見えないらしい。
猿は、上から下に順番に赤い玉を手渡していき、一番下の猿はその赤い玉を屋上に置いた。
ポツッ。肩に雨粒が落ち、川向こうの黄色い古ぼけたビルを見た瞬間、ドシャーン! という凄い音がして、そのビルに雷が落ちたのだ。ビルは炎を上げながら崩れ落ちた。雷は、あの赤い玉を目印にして落ちてきたに違いない。
- 作者: 楠田文人
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