【#0005】金子昇さんが考える、定年後の過ごし方

1000人に会いたい PJ

CLIE PEG-UX50ユーザーで、「PEG-UX50で作るblog」というブログを運営している金子さん。私とは、以前、CLIEユーザーを取材する企画でお会いして以来、10数年のお付き合いになります。金子さんはすでに定年を迎え、再雇用で職場が変わったとのこと。定年後の生活がどうなるのか知りたかったので、インタビューしてみました。

井上 今はどのぐらいの頻度でお仕事されているんですか。

金子 週に3日仕事して、4日はお休みしています。

井上 それは羨ましい!

金子 羨ましい? なぜ?

井上 4日もあれば、なんでもできるじゃないですか。読みたい本読んだり、見たい映画を見たり。

金子 僕も、以前はそう思っていましたよ。そんなに休んでいいんなら、読みたい本が読めて、見たい映画を見て、ギターも好きなだけ弾ける。でも、実際これをやってみると、それほどいいものではない。実際、そんな生活を続けていると、そのうち飽きるんですよ。まだそんなに経っていないけど、すでにそういうことを感じていたりします。だからつい、「この生活を、ずっと続けるなんてこと、できるかなあ」なんて思ってしまったり。

井上 なんだろう、その気持ち。居心地悪いのかしら。

金子 確かに、居心地は悪いですね。それに、なんというか、妙な罪悪感もある。たとえばね、これまで出来なかったこと……朝からビール飲んじゃったりね、そんなこともできちゃうわけです。でも、いざそれをやってみると、なんかこう、罪悪感を感じてしまう。

井上 なぜ? いいじゃないですか。これまでずっと働いてきて、ようやく自由が手に入ったのだから、思う存分、やりたいことをやればいいんですよ。

金子 それが、そうもいかないんですよ。なかなかぼけーっとできないんですよ、僕らは。だって、小学校時代からずっと、そういう生活をしてきたんだからね。昼間に好きなことをしてはいけないっていう目に見えない呪縛の中にいたのに、そうそう簡単に気持ちは切り替えられない。

井上 そうなんだ……。では、どうすればいいんでしょう。

金子 うん、なんとか解決していかないとですよね。今は、どこか自分がハマるところを求めています。それがどこかで働くってことにはつながらないんだけど、できればいい具合に負荷がかかる場所を見つけたい。

井上 負荷ってなんですか。縛り?

金子 うん、そうかな。やっぱりね、完璧な自由ってしんどいんです。なにか、足かせがほしい。あまりしんどくてもいけないけど、いい具合に負荷がかかる場所。なにかこう「やらなくちゃ」という気持ちにさせらえれるようなもの。そこに、自分が生きる目的みたいなものをすりあわせていければ、もっと気持ちよく生活できるようになるんでしょうね。人によっては、それが地域活動になるかもしれないし、ボランティアみたいなものかもしれない。そういうことをやって、自分に対して強制的に負荷をかけていかなくちゃなあと。

井上 今の60代って、昔と違って体も頭も元気じゃないですか。だから、力が有り余っているのかも。「僕、まだまだやれるのに」っていう悔しい気持ちはない?

金子 それは、ありますよ。勤続36年分のノウハウやスキルがあるんだから、やろうと思えばいろんなことがやれる。それを発揮したいっていう気持ちはありますよ。だから、やれることをやれる形でやっていこうと思っている。

井上 やれる形?

金子 そう。これまで自分の中で積み上げてきたノウハウやスキルは、できるだけ次の人に伝えたい。人材って、財産ですからね。それを育てたいと思う。でも、今はそういう立場にないから、態度で示すようにしています。「ごめんね、僕、昔の人だからさあ」って言いながら、それまでやってきたやり方をさりげなく見てもらったりしてね。で、回りの人にそれがちゃんと伝わっているなあってことがわかると、やっぱり嬉しいですよ。

井上 今後の不安とか、あります?

金子 それはやっぱり、あります。ずっと今のままじゃないし、頭も体もエイジングしていくわけだから、これから20年後は相当つらいだろうなあってことは考える。そのとき、たとえば妻は元気だろうか、とか。回りの世話になったりすることもあるだろうし、そのときはどうすればいいのかなってこととか。

井上 先のことを考えると、不安になりますよね。特に我々は、赤ちゃんとは違って、年を追うごとにやれることが減っていくのだから。

金子 でも実はそうでもなくて、年を重ねてきたからこそできることもあります。たとえば、ギターの音。この前、1日かけてギターの音作りをしていたんだけど、「この年になって、ようやくこの音が出るようになったんだぜ」っていう音に出会えたんですよ。

井上 それはいいですね。年を重ねてできるようになることもあるんだ。

金子 だけど、そうなったところで「誰がわかってくれる?」と思ったりもしてね(笑)。誰もわかってくれなくても、「これができて嬉しい」ってことは、もちろんあるんだけど。

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

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