2016年6月21日、脳出血で母が亡くなりました。前日まで元気に暮らしていただけに、突然ひとり残されてしまった父は茫然自失。しばらくは娘である私と、父の妹である叔母のサポートなしでは暮らせない状態でした。それから3年。父はいま、天草の地で一人暮らしをしています。
先日、母の法事に参加するために実家に帰った際、父にインタビューしてもいいかと聞いたらOKとのこと。娘という立場だと聞きにくいことも、インタビューなら聞けそうです。この機会に、いろいろ話してもらうことにしました。
私 毎日の食事はどうしているの?
父 朝はトーストと味噌汁、コーヒー。味噌汁にはなんでも入れるよ。庭の畑でとったナスやトマト、きゅうり、かぼちゃ。豚肉や鶏肉を入れることもある。
私 トマトやきゅうりを味噌汁に入れるの? それはなかなか変わってるね。
父 ママが生きていたら、変だと笑うだろうね。でも、ぼくは味噌汁が好きだし、他に色々作れるわけでもないから、栄養バランスを考えてもこれがいいと思っている。ほかに誰かに食べさせるわけでもないし。
昼は買い物に行くから、スーパーで弁当を買って帰って食べることが多いね。夜はだいたいお刺身と、朝作った味噌汁。それと日本酒を飲む。たまに近所の人がおかずをもってきてくれたりするし、ゴルフにいったときはゴルフ場の食堂で食べるから、まあまあ健康的な食事をしていると思うよ。健康診断でも「問題なし」と言われているから、きっとこれが体に合っているんだと思う。
私 日中はずっと一人?
父 そうだね、ゴルフに行って友達と会ったり、近所の人が様子を見に来てくれたりすると話もするけど、なにもなければ1日中ひとりだから話し相手もいない。朝は1時間ほど散歩をして、途中で体操をする。そのとき、学校に行く子供たちと「おはよう」ということはあるけど、そのぐらいかな。
父 ママがいたときはずっと彼女と話していたから、そりゃあミカが想像する以上に寂しいよ。でも、寂しいだけじゃないんだよ。実はそこに、底知れない自由がある。
私 底知れない自由? どういうこと?
父 誰にも気遣うことなく、自分の気の向くまま、好きなことができるという自由。ただ、ぼくはあまり怠惰な生活が好きじゃないので、そうはいっても規律正しい生活をしてしまうんだけどね(笑)。
だからといって、ママがいないほうがいいというわけではない。ママといたら、なんでも相談できるし、なにより毎日の生活が楽しい。彼女がいない世界なんて想像すらできないほど、ぼくと彼女は一心同体だった。ぼくが転職を考えた時も、退職を決めた時も、ママはいつも話を聞いて「それがよか!そうしなっせ!」と背中を押してくれた。それが本当にありがたかった。
でも今は、そんな相談をすることもできない。なにもかも、自分で決めなくちゃいけない。それはとっても寂しいし、心細いこと。でも、そこには「底知れない自由」もある。なんでも自分で決めていい、誰に気を遣わなくてもいい。好きなだけ本を読んでいいし、夜中に見たいテレビ番組があればそれを見て、朝寝坊してもいい。出かけてもいいし、出かけなくてもいい。この自由を支えているのが「いい孤独」なんだ。
私 寂しいけど自由。どっちがいいんだろう。
父 彼女が一緒にいてくれたら、と思うことは今でもある。でも、現にママはもういないからね。この状況を受け入れるしかないのであれば、それを「自由」ととらえてみよう。そうすれば、これはこれでかけがえのない経験。ママには悪いけど、夫婦のうち生き残ったほうだけが味わえる、かけがえのない自由だね(笑)。
私 私やおばさんは、近くにいないでしょ。近くにいてくれたらいいなと思うことはない?
父 そうね、年に数回会いに来てくれる程度がちょうどいいんじゃない? たしかにミカは1300キロ離れた東京にいて、いつでもすぐに会える距離ではない。孫たちや、ひ孫たちにも会いたいと思うけど、もし近くにいてしょっちゅう会いに来られたら、正直、ちょっと面倒だと思うかも知れないね(笑)。ミカに会うのは嬉しいけど、ミカたちがここにいる間はいつもと違う生活をするせいか、体調も狂うしね。
私 それは申し訳ない(笑)
父 人と会って話すのは好きだし、まして妹やミカは大事な家族だからね。会えるのは嬉しいよ。でも僕は自由を愛する人間だからね。不安や孤独を受け入れて、この気ままな生活を守りたいという気持ちはあるよ。近くには親切な隣人もいるし、かけがえのない友達もいるしね。ぼくはできるだけ、1日でも長く、この生活を楽しみたいと思っているよ。
私 そういう気持ちなのね。話を聞いてよかった。私も、お父さんのこの生活が1日も長く続くように祈っているよ。
父 ありがとう。たしかに僕はここで孤独だけど、天涯孤独じゃない。離れてはいるけれど、娘や妹がいつも気にしてくれているし、孫やひ孫もたくさんいる。幸せなことだと思っているよ。
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