【#0013】末期がんを告知された水城さんが考える、コンテンツを作る意味とは

1000人に会いたい PJ

30年来の友人である、水城ゆうさん。NIFTY-Serve「FBOOK」フォーラムのシスオペだった頃からお世話になっていて、私がこの業界に入ったきっかけをくれた人でもあります。先日、彼はSNSやメルマガを使って自身が「食道がん」のステージ4であることを告白。驚いた私は、本格的な治療を始める前にぜひお話を聞きたいと思い、すぐに水城さんに連絡しました。インタビューの相談をしたところ、「いいよ」とご快諾いただいたので、さっそく水城さん活動の場である春野亭にお邪魔してお話を伺いました。

なお、このインタビューはYouTubeに動画としてアップされています。記事には書ききれなかったこともありますので、もし興味がある方はぜひ動画をご覧ください。

マイカ・井上真花の1000人プロジェクトでインタビューを受けた (YouTubeより)

 作家であり、ピアニストであり、テレビやラジオの番組制作もこなす水城さんは、ずっとマルチプレイヤーと言われていましたよね。

水城 そうだね、自分でも器用なんだと思っていたけど、実はそうじゃなかったんだ。ぼくが得意なのは、ものごとの構造や本質を見つけること。たとえば小説を読んだら、「これってどういう仕組みで作られているんだろう。出だしはどうなっている?」という風に分析して考えたり、「表現ってなんだろう」と本質的なことを考えたりする。そういうことが得意だったんだよね。

 構造や本質を見つけるのが早いから、上達も早いっていうこと?

水城 そう。だから一見なんでもできるように見えるんだけど、実はすでにあるものの本質や構造を応用しているだけ。「あなたのオリジナリティはなに?」って言われると、それがない。商業的な小説を書いたり、お金をもらってピアノを弾いたりすることはできるんだけど、それが自分のオリジナリティかっていうと、そうじゃない。それに薄々感づいて、嫌気がさしてきたものだから、2000年には商業的な出版や演奏から距離を置くようになったんだ。

ちょうどその頃、インターネットが普及し始めていた。インターネットの世界は本当に自由で、自分が書いた物をすぐにみんなに読んでもらえる。有料だとなかなか読んでもらえないけど(笑)、タダにすればみんなに読んでもらえる。これはいい、と思ったよ。生活は生活で別のことを考えなくちゃいけないけど、ただ自分の書きたいものを読んでもらいたいのであれば、こんないい手はない

そこではじめて、自分の中からどんなストーリー、どんな表現が出てくるんだろうということに挑戦したくなり、自分の中に糸を垂らすような作業を繰り返しながらまた小説を書き始めた。それが、たぶん40代後半の頃。それからは毎日、小説を書いているよ。今も書いている。すごくおもしろい小説だよ。

今はインターネットがあるから、誰でも自由に自分のコンテンツが発信できる。個人の発信者にとって自由で理想的な環境だよね。たとえば岐阜に住んでいるミヨちゃんは、自分が飼っている猫を長生きさせるのが得意。毎日、猫の食事を手作りしてInstagramにアップしているのよ。これってすごいコンテンツだよね。電子書籍にしてまとめれば、全国の猫好きとつながれるし、ひょっとしたらコミュニティにできるかもしれない。そうなれば、きっと面白いことが起きると思う。

 水城さんにとって、コンテンツにするってどういうこと?

水城 今もこうやってダラダラした会話をYouTubeにアップしているわけだけど(笑)、全く価値がないコンテンツかもしれないけれど、人によってはすごく価値があるかもしれない。それを判断するのは見ている人で、こちらが価値判断をしなくていい。だから、あえてエディットしないのよ。なんでそういうことができるかっていうと、検索機能があるから。必要な人が必要な物を見つけるシステムができているから、エディットしなくてもいい。そのまま、インターネットという大海に放つわけよ。みんな、そうやってどんどんインターネットに投げ込んでいけばいい。きっと見たい人がいるし、人によってはそれが意味を持つこともあるだろう。俺は、そういう世界でいいと思う。

 大海すぎて、欲しい情報にたどり着けない人もいると思うけど。

水城 そういう人は、キュレーターを探せばいい。誰かの収集能力を発見し、その人をフォローするのよ。センスが合う、相性がいい人がきっと見つかると思う。その人はプロの編集者じゃなくてもいいし、そういう二次利用の情報発信をしていけばいい。そこには、経済の論理でははかれない価値があると思う。

このインタビューだって、別に金品のやり取りがあるわけじゃない。でも、俺の限りある命のなかで、こうやって真花ちゃんと話ができて、それがずっとインターネットの中のコンテンツとして残る。そうすれば、いつか誰かがこれを見て「こういう人がいたんだ」って思うかもしれない。それでいいと思うんだよ。

なにかを志してそこに向かう、それが生きているということ

水城 僕は今、食道がんのステージ4だから、残りの人生の期限が決められてしまったんだけど、その限られた時間のなかで、どうやってやりたいことをやればいいか考えているのよ。

 そうですね。私は今1000人インタビューを20年かけてやろうとしているんだけど、それは残りの人生の期限がわかっていないからチャレンジできること。

水城 でも君だって、明日なにかの事故で死んでしまうかもしれない。それで1000人は達成できなくなるんだけど、大事なことはそういうことではないでしょう。今日、いま、この瞬間、1000人インタビューに向かって行動しているってことが何より重要でしょう。今、そこに向かっている、そのときに生き生きする。それが生きているってことでしょう。

 あ、確かにそういうことなのかも!

水城 おもしろいことに、自分は末期がんですっていう話をすると、一緒に仕事をしましょうという人が何人か出てきたんだよ。それはきっと、ぼくというリソースが使えるうちに使いたいと思ってもらえているんだと思うし、それはとても嬉しいこと。ぼくの中にある貢献ニーズが満たされる感じがする。誰かに貢献したいって言う気持ちは、誰にでもあるよ。自分の命を自分だけのためではなく、誰かの役に立てたい。そういう気持ちはきっとみんな持っている

 きっと、そうですよね。

水城 君だってお孫さんがいるんだから、お孫さんが生きる世界をよくしたい、そのためになにかできると思ったら、それは素晴らしいと思うでしょう。そういうことなんだよ。

誰にでも、必ず誰かの役に立つ何かがある。それは自分でも気づかないことかもしれない。誰かが教えてくれるかもしれない。今は、誰もが持っているコンテンツを、自由に世界に発信できる時代。全員が表現者になれる時代。だから、みんな勇気を持って発信してほしい。マジにそう思っているよ。

水城さんのブログはこちらです。

水の反映

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

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