【#0015】ガジェット鑑定ショーの放送作家、トトロ大嶋。さんが語るメディアのあり方

1000人に会いたい PJ

平成最後の日、私は大阪の地でNHK生放送に出演していました。番組名は「平成ガジェット鑑定ショー」。この番組に出演するきっかけになった放送作家のトトロ大嶋。さんに、PDA博物館の取材をお願いしました。取材の後、トトロさんが話し始めた言葉がとても印象深く、ぜひそれを1000人インタビューにとお願いしたところ、ご快諾くださいました。トトロさん、ありがとうございました。

井上 取材のなかでお話された「ネットによって知見が広がった」というのは?

大嶋 ぼくがパソコン通信をはじめたのは、高校一年の頃。その頃、あまり学校が楽しくなくて、パソコン通信に夢中でした。とくにチャットがおもしろくて、課金がえらいことになるほどハマり、それをなんとかするためにバイトまでするようになったほど(笑)。

井上 なにが魅力だったんですか?

大嶋 今で言う違うクラスタ(位相)の人と出会えることでした。チャットで盛り上がった相手に実際に会いたくなってオフ会に行ったりもしたんですが、会ってみると、実は東大の先生だったり、小学生だったり。パソコン通信では肩書きや属性抜きで話ができるので、先入観なしでお付き合いできたんです。

井上 学校で話している友だちとは違っていたんですね。

大嶋 そうですね。知らない世界が広がっていく、知見が広がっていく感覚です。夏休みになると、青春18きっぷを使って、全国どこへでも会いに行きました。お金はないけど、はじめて会うネットの知り合いの家に泊めてもらいながら、旅をして……。

高校で出会う友だちって、親の経済状態や成績のレベルが同じような人ばかり。でもパソコン通信は違った。いろんな地域の、立場や仕事をしている、様々な価値観を持っている人がいる。ごく当たり前のことなんだけど、そういう人の話を聞くことで、自分の見ている世界が全てではないということを知ることができました。

大嶋 僕らの時代って、いわゆる団塊ジュニア世代なんですが、年金問題に限らず、上の年代に比べるとものすごい格差があるわけですよ。みんなが平均的じゃない。それこそ幸せな家庭を築いている人もいるけど、結婚していない/できない人もたくさんいる。そんななか、東京でメディアに携わる仕事をしていると、相変わらず一昔前のように、平均的な価値観で切り取った情報や話題を中心に発信していたりして。自分が見ているものだけが世界のすべてだと勘違いしてしまいがち。今はもう、そうじゃないよねと。

井上 視野が狭くなってしまうんですね。

大嶋 今はインターネットというメディアがあるんだから、これをうまく使えばもっと世界を広げられるはず。一面的なものの見方ではなく、多面的に捉えるというか、いろんな場所でいろんな生活があるということを、もっと意識する必要があるんじゃないかって思います。

井上 世界にはいろんな国があり、そこに行かなければわからないこともありますよね。

大嶋 はい。例えば、僕は3.11以降、被災地でのボランティア活動にも携わっているんですが、テレビで見て募金をしているだけではわからないこと、行ってみないとわからないことがある。そのとき感じたのは、いざというときに頼りになるのは人とのつながりだということですそういうつながりを、どうやって作って行けばいいのか。メディアってもともと繋ぐっていう意味ですけど、それに携わる人間としても、いろんなことを考えさせられました。

大嶋 最近、SNSのあり方が気になっています。どうしても、軋轢が出てくるんですよね。たとえば、堀江さんみたいな人たちがいれば、熱烈な信奉者と同時にアンチ堀江さんみたいな人も出てくる。マスメディアを作る立場なら、そのどちらにも配慮し、偏りのないバランスの取れた内容にしなければいけないと思うんです。でも、生意気なことを言わせてもらえば、最近はそれができていない番組が増えているような気がする。

井上 わざと煽っている人もいますしね。

大嶋 いますね。なかには、やまもといちろう氏のように、わざとビジネスでやっている人もいるけれど(笑)。そうでなくて、無自覚なまま、ただ自説の正しさを証明するために対立を深めていこうとする人もいる。僕はそれって、あまりいいことではないと思うんです。

あくまでも、考える主体は、(情報を)受け止めるそれぞれの人にある。そのために必要な情報・材料を届けるのが、場を提供する人間の仕事だと思うんです。でも、どうしても「おもしろく、刺激的で、話題性のあるものを」みたいな意識が先に立ってしまい、結局、それだけで終わってしまう。その結果、なぜそういう意見が出てくるのかが理解されないまま。

井上 大嶋さんはテレビのお仕事をしていますが、最近はテレビを見る人も減ってきていると言います。それについてはどう思いますか?

大嶋 僕はインターネットもテレビも大好きです。でも、最近の風潮を見ていると、どうも両者が対立しているように思えてとても残念です。できれば、この対立を埋めていきたい。ネットの人がテレビのことをボロクソにいっても、なにもいいことはない。言い争っていても、仕方ないんです。テレビの方が上、ネットの方が上という争いは、何の意味もない。もともと、それぞれの特性も微妙に違うメディアですし、僕はどちらも必要だと思います。

僕はコンテンツ(番組)屋さんなので、テレビだろうと、ネットだろうと、なんでもいい。ちゃんと皆さんに届く、心に響くものが送り出せるかどうかが大事だと思っています例えば、日曜夜には一家みんなが集まって、「サザエさん」を見ていた時代は過去のものになりつつあります。が、その一方で、ちょっとした地方都市にいけば、まだそういうスタイルが残っている地域もある。今は、そういう意味で過渡期なんですけど、実はこのどちらにも一つのテレビ番組が対応することって難しいんですよ。

とはいえ、今までは無視されてきた、サザエさんにはなんだか乗れない「ぼっち」な人たちの日曜夜を楽しくするための番組なり、方法なりを考えて、掲示していくことはできるかなと

マスメディアってもちろん最大公約数を狙ったヒットを考えていかなきゃいけないんですけど、もうみんなが「右向きゃ右」みたいなことは難しいと思うので、そこは一旦忘れてもいい。それより僕は、テレビとネットの両方を使って、おもしろいことを提案していけたらいいなと思っているんですよ。

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

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