【小説】古い色美術展(楠田文人)

娯楽小説

「ねえねえ」

「うん?」

「国立美術館で『印象派絵画展』をやるの、知ってた?」

「知らない」

「いいなぁ、行きたいなぁ。でも時間取れないしなぁ」

「印象派じゃないけど、近所でやってる美術展を見に行くか?」

「えっ!? どこでやってるの?」

【壁際でひっそりとつけた実】

「へぇ、こんなのが足元にあったなんて」

「気にしてないと見落とすよね」

「着物の柄にしてもいいわね」

【漆喰を伝う】

「屋根の下がこんなになってたの?」

「和風だね。枯れた下の方は水墨画みたいだし」

【色あせた壁】

「横断歩道のペイントも絵の一部になってるね」

【一輪の命】

「花のところにだけ色がある」

「ほんのちょっとだけなのに色が目立ってるね」

【抽象:糊の跡】

「日本画風や水墨画風は見てきたけど、抽象画まであるなんて思わなかった」

「できあがりを考えてお知らせとかを貼ってたとしたら凄い」

【曇り空のある壁】

「今にも降りそうだね」

「壁の古さと曇り空が合ってる」

「立体的で複雑な建て方だし」

【二つの椅子】

「昔からずっとここにあったんだろうね」

「入場無料の『古い色美術展』。見終わった人はここで休むのかな」

「ふふふの話 5」より

楠田文人 著作一覧
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楠田文人

IT 系コピーライターをしています。お話(電子書籍)も書いています。

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