【#0017】ITライターから宇宙ライターへ。松村武宏さんが語る宇宙の魅力

1000人に会いたい PJ

格安スマホライターとして有名な松村武宏さん、実はチームマイカのメンバーでもあります。マイカでお願いしているのは、主にIT系の記事ですが、最近では「そらへのポータルサイト sorae」で宇宙ライターとしても活躍されているとか。今回は、なぜIT系ライターが宇宙ライターに転向したのかという理由について聞いてみることにしました。

……実はこの原稿、チャットでやりとりしながら作ったんです。松村さんは長野県在住で、なかなかお会いできないため、こういう形になりました。以前、一度インタビューのために東京に来てくださったんですが、そのときの話は私のテーマ設定がよくなくて、うまくまとまらなくて。その後、チャットでやり取りをしつつ、なんとかまとめました。松村さん、ご協力ありがとうございました!

井上 松村さんは、ずっとIT系ライターだったけれど、今は宇宙ライターとしても活躍されていますよね。どうして宇宙ライターになろうと思ったんですか?

松村 「宇宙」に関する話題が好きで、ずっとニュースサイトやSNSをチェックしていたんですが、どこかまだ「マニアックな興味対象」として捉えられている印象があり、気になっていました。「はやぶさ」などで一過性のブームに沸き立つことはあって、それをきっかけにちょっとずつ裾野は広がっていると感じていますが、熱がおさまると大多数の関心は途絶えてしまうなと……まぁ、ブームとはそういうものなんでしょうけど。

自分は、人類が生存していくために宇宙進出は絶対に避けられないと考えています。だから、もっと多くの人が宇宙に関心を持ってほしい。ただ知識を得て満足するだけじゃなく、そこで働いたり暮らしたりする道を選ぶ人が、もっと増えて欲しい。その役に立ちたいという気持ちがあり、「自分にできること=ライター」として宇宙に関する情報を発信していこうと思ったんです。

井上 ずっとネットで宇宙関連の情報を見ているなかで、ライターに求められる基礎知識を身につけることはできましたか?

松村 はい。宇宙のことがとにかく好きで、既存の知見を読み漁ったり最新情報をチェックしたりしているうちに、ライターとしてお仕事ができるくらいには詳しくなっていたのだと思います。

宇宙に関する話題は、大きく2つのジャンルに分かれています。ひとつはそこに広がる自然環境(天文)、もうひとつは、そこで活動するための手段(宇宙開発)。両者は、似ているようで全く違います。学校の授業で例えれば、「理科/数学」と「技術/保健体育」くらい違うんですよ。

しかし、NASAなどの探査ミッションに興味を持っていろいろ調べるようになると、おのずと「探査対象の天体」と「探査機や宇宙船」の両方を知ることになります。そんなわけで、自分の場合は両方ともある程度の知識を身につけることができました。

井上 ITライターが宇宙ライターに転身するのは難しいと思うんだけど、どうやって実現したんですか?

松村 自分がライターとしてお仕事をしている「sorae」は、読者として何年も前からずっと読んでいた媒体でした。「宇宙ライターになりたい」と思い立ったとき、ライターを募集している媒体がないか調べたところ、たまたまsoraeのライター募集ページを発見したんです。これはチャンスとばかりに、なぜ宇宙ライターになりたいかという思いを綴ってみました。たまたまライターが不足しているタイミングだったという幸運もあって、採用していただけました。

ITライターを始めて、7年強。その間、一緒に仕事をさせていただいた皆様のおかげで、ライターとして必要な基礎スキルを身につけることができました。そのスキルが、ジャンルが変わっても通用したんです。

話題そのものや記事あたりの文字数は今まで書いてきたITジャンルの記事とは全然違いますが、その話題のどこにフォーカスするか、どのような構成にすればわかりやすいか、難解な内容をどこまで噛み砕くかというようなことは、IT記事も宇宙記事も同じです。

井上 では、ITライターと宇宙ライターを両方やってみて違うと感じたところは?

松村 執筆の対象(テーマ)が、実用的かどうかっていうところですね。

たとえば「格安スマホ」記事の原稿を書く場合、ケース別のおすすめ料金プランや大手携帯キャリアとのコスト比較、スマホ本体の使い勝手、通信品質の比較など、実用性に注目したテーマがほとんどです。

それもそのはずで、格安スマホの一番の魅力は「コストの安さ」。私の記事を読んでくださっている人は、家計の通信費を抑えるために乗り換えを検討していたり、すでに乗り換えているけど他所のMVNOにMNPしようと考えたりしている人が多いのではないかと。

いっぽう、自分がsoraeで主に書いている天文ジャンルの記事は、はっきり言ってあまり実用性はありません。30光年先に地球サイズの惑星が見つかったとか、4000万光年先の銀河にあるブラックホールの重さが太陽22億個分だったとか、そんなことを知っても、日常生活にはあまり影響ありませんよね(笑)。宇宙ライターとして書いている記事は、「好奇心」を刺激するためのものばかりなんです。

もちろん、研究の第一線で活躍されている方々にとっては重要な発見ばかりだということはわかっています。しかし、自分も含めた一般の方々にとって、日々の暮らしに役立つ情報ではありません。

ただ、暮らしに役立たないからといって、天文ジャンルの記事が不要だとは思っていません。手前味噌ですが、映画や書籍などのコンテンツから得られるような「心の潤い」をもたらしてくれるものなのではないかな

井上 こんなことを聞くのも野暮かと思いつつ……ITライターと宇宙ライター、原稿を書いていてどっちが楽しい?

松村 比較すれば、今の自分には宇宙ライターのほうが楽しいです。天文学の新発見なんてそんなにひんぱんにはないだろうと思っていたんですが、soraeでは天文の最新ニュースを毎日(ウィークデー中心に)書いています。それだけ、書くことがあるんですよ。

過去の知識のアップデートも含めた新しい知見が、日々これだけ発表されているだなんて、宇宙ライターをやるまでは知りませんでした。そんなわけで、自分は毎日ワクワクしながらネタを探し、「この感動をみんなに伝えたい!」という衝動に突き動かされながら記事にまとめているんです(笑)。

井上 これからの話をしましょう。どういうものが書きたいと思っていますか?

松村 「こういう記事」という明確なイメージはありませんが、誰かが人生の針路を「宇宙」に向けるきっかけになるような記事が書ければいいな。

井上 好きなこと、得意なことを仕事にしたいと考えている読者もいると思うので、そのために何をすればいいか、アドバイスをお願いします。

松村 好き/得意なことを追求するのに、遠慮はいりません、むしろ、徹底的に突っ走ってみて。もし誰にも到達できない高みに達することができたら、その場所にいるというだけで、やれることは増えているはず。

もしそこまで達することができなかったとしても、がっかりすることはありません。自分のように表現者(ライター、フォトグラファー、ミュージシャンなど)になったり、他の仕事と組み合わせたりする道もあります。

たとえば現在の日本の宇宙飛行士には、化学、宇宙物理学、工学、医学、テストパイロットといった何らかのスペシャリストが採用されていますよね。そのあたりの道を模索し、自分の好き/得意を「○○に秀でている」として活かす道を見つけていけばいいのではないかと思います。

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

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