【#0018】三昧琴プレイヤー、福島千種さんが考える「三昧」とは

1000人に会いたい PJ

今回、私のインタビューを受けて下さったのは、サウンドセラピストであり、三昧琴奏者でもある福島千種さん。初めて出会ったのは、たしかお仕事つながりで、その頃の彼女は、バリバリのキャリアウーマンを辞めてママになったばっかりだったような。そんな福島さんの息子さん、もう大学生だというから驚き。あれからもう、そんなに時間が経ったんですね。インタビューでは、福島さんが奏でる三昧琴(ざんまいきん)という楽器について、いろいろお聞きしました。

井上 三昧琴って、どういう楽器なんですか?

福島 三昧琴は、石川県小松市在住の鍛冶師、河上知明さんが制作されているオリジナル楽器です。純チタンあるいは鉄製でひとつひとつ手作りのため奏でる音程もすべて異なります。

三昧琴

福島 私は音叉でのサウンドセラピーもやっているんですが、音叉はチューニングがしっかり決まっていて、製品化の際、少しでもずれると削って調整したりしますね。三昧琴は、そういったことは一切なし。買うときも、ドレミファソラシドという音で買うのではなく、鳴っている音を聞きながらプレイヤーが好きな組み合わせを選び、それで音階を作って買って帰ります。

井上 福島さんは何枚もっていますか?

福島 私が持っているのは、30枚ぐらい。演奏会ごとにセレクトします。海外に行くときはフルセット持って行ったりするんだけど、今、一番気に入っている6枚は必ず持っていきます。お客さんがいなくても、山の上や森の中でひとりで演奏したりするんだけど、そのとき持って行くのはその6枚ぐらい。

井上 ええっ、山の上でひとりで演奏することもあるんですか?

福島 ありますよ。アメリカのシャスタという聖地と呼ばれているところがあって、そこに連れて行ってもらったんです。といっても、シャスタ山じゃなくて、シャスタ山が見える小高い場所に座って、湖や山々を見ながら三昧琴を演奏していたら、鳥がたくさんやってきて、みんな一緒にピヨピヨ鳴いていたんですよ(笑)

シャスタでの演奏の様子

井上 山の上で演奏すると、その音は誰が聞いているのかしら?

福島 土地かな。地球が聞いてくれている感じ。洞窟のなかで演奏したこともあるんですよ。そのとき、ちょっと不思議なことがあったの。洞窟があることは知っていて、でもそれはgoogleマップにも表示されないような場所で、同行者の勘を頼って近づいていったら、洞窟が見つかったの。

パッと見てすぐにわかるような大きな洞窟があったんだけど、その前に宿の人から聞いた話だと、「偽物の洞窟と本物の洞窟がある。偽物の近くに本物の洞窟があるから、偽物に入らず本物を探して」。きっとこの大きな洞窟が偽物なんだろうと思ったんだけど、試しにちょっとだけ入ってみたらすごく怖かったんで、すぐに出ました。

で、そのそばにある小さい洞窟に入って奥まで行ってみたら、ぱーっと開けた空間があって。きっと、ずっと昔はネイティブアメリカンが儀式とかしていた場所なんじゃないかしら。その空間で三昧琴を演奏したときは、本当に神聖な場所という感じで、まるで神社みたいでした。あそこで演奏させてもらえたことを光栄に思います。

井上 不思議な場所ってありますよね。知人がバリ島に行ったとき、そこで聞いたガムランがすごくよかったというんですけど、それってきっと音だけじゃなく、土地も関係あるんでしょうね。

福島 そう、バリ島はマジックの島なんですよ。もともと三昧琴作家の河上さんは、新婚旅行でバリ島にいったとき、バリアン(バリのシャーマン)から「あなたは将来音が出るものを作るだろう」と予言されたそうです。彼は当時、すでに燭台を作る燭台アーティストだったから「それはなんだろう?」と思っていたんだけど、あるとき某ミュージシャンが河上さんのキャンドルスタンドをなにげなく箸で叩いたところ、とてもいい音がしたんだそうです。で、その人から「これって楽器になるんじゃないの」という電話がかかってきて、河上さん「ああ、これだったのか」と。

井上 へえー! やっぱりバリって不思議な場所なんですね。そういえば、三昧琴の音はバリのガムランに少し似ている気がします。聞いていると、ぽわーんとしてくる感じで。

福島 そうですね。三昧琴は音階をチューニングして制作するわけではないから、不協和音っぽく聞こえる組み合わせで響くこともあるんですけど、それが不思議と気持ちいい音として聞こえてくる。ひとによって違うんですけど、すっごく眠くなる人もいれば、集中できるという人もいます。夢と現実の間をいったりきたりする感覚を感じる人も。

井上 それ、ちょっとわかる。私も眠くなりました。

福島 私、音叉もやっていて、音叉のアルバムも出しています。Apple Musicで「福島千種 音叉」で検索するときっと出てくると思うんですが、それを聞いた主婦の方から「掃除がはかどるのよ」って言われました。おもしろいでしょ(笑)。いずれも個人の感想なので、こちらから効果として言うわけにはいかないんだけど、よくそんなことを言われます。

三昧琴を演奏する福島千種さん

井上 音叉はサウンドセラピーにも使ってますよね。

福島 はい。三昧琴は、瞑想のお供にも使ってもらっています。たまにヨガのライブでも一緒にやったりするんだけど、そういうものとすごく相性がよくて面白いですよ。あとは、ライアーやディジュリドゥなど楽譜のない楽器と一緒に即興で演奏したり。そういうのも、楽しくて。

井上 ところで「三昧琴」の「三昧」って、あのざんまいですか?

福島 はい。三昧とはサンスクリット語の「サーマーディ」の音訳で、「心の動きが完全に止まった、心が凪いだ境地に至る」状態のことを表す言葉。よく日本でも「○○三昧」って言いますよね。シンプルな行動を無心になってひたすらやり続けることで、三昧状態になります。この三昧琴を作っている人も「三昧」だし、演奏するときも「三昧」。三昧琴を演奏すると、気分がリセットされるような気がします。

私はもともとこの音が好きだし、やっているのが楽しい。この音が土地と響き合っているとき、特に嬉しく感じます。どちらかといえば、お祈りに近い感じかな。私にとっては、三昧琴を演奏していることそのものが瞑想だし、一番私に合っている瞑想スタイルがこれ。だから、これからもずっと三昧琴を演奏していたいんです。

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

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