小野真由美さんは、社内コミュニケーションを支援する会社「グラスルーツ」の社長さん。私と小野さんはFacebookでつながっていましたが、実際にお会いするのはこれが初めて。「1000人に会いたいプロジェクト」を開始するとFacebookに告知した際、小野さんから「私もインタビュー受けますよ」というコメントをもらったので、早速お約束を取り付け、オフィス近くのレストランでランチをご一緒しつつインタビューしました。
井上 小野さんとつながったきっかけは、たしか2014年8月のアイス・バケツ・チャレンジですよね。
小野 そうそう。井上さんが氷水をかぶったあと佐藤さんにバトンを渡し、私は佐藤さんからバトンを受け取ってチャレンジしたんです。
井上 そのとき世間の風潮は賛否両論で、私も氷水をかぶったものの、微妙な気持ちになっていたんです。そしたら小野さんがブログでアイス・バケツ・チャレンジについて書かれていて、ああ、そうかと。すごく腑に落ちたんでした。
小野 あのとき私が感じたのは、「他人からどう思われるだろうか。批判されるのが怖い」という「恐れ」でした。その「恐れ」を押しとどめたのは、ALS患者であるアンソニー君の映像です。アンソニー君の気持ちになって考えてみると、その恐れはなくなり、ただ彼を応援したくなった。そういうことを、ブログに書きました。
井上 たしか佐藤さんも、アイス・バケツ・チャレンジについてのブログを書かれていましたね。それにも私、すごく共感しました。小野さんと佐藤さんの洞察には、ホント恐れ入ったんです。ところで「アンソニー君の気持ちになって考えてみると……」というくだり、いつも小野さんはそんな風に多面的に物事をご覧になるのですか?
小野 多面的に見ているかどうかはわからないですが、癖として「分解好き」ということはあると思います。物事を理解したいと思ったとき、大きいままだとよくわからない。「つかみどころがない」という気持ちになります。そこで、分解しようとする。そうして分解していくなかで、もしかすると自分じゃない視点を得たりするのかもしれませんね。
井上 分解好きっておもしろい。分解すると、理解しやすくなりますか?
小野 たとえば、あるプロジェクトについて考えるとき、企画やヒアリングというスタート地点から、制作物を完成させるというゴール地点までの全体について一度に考え始めると、「あれもやらなくちゃ」「これもやらなくちゃ」といろいろ思いついてしまって、途方もなく大変に思えてくる。そうすると、もうそこで気持ちが負けてしまいますよね。
井上 ありますね。タスク管理でよく問題になること。
小野 そういうときは、全体をいくつかの段階に分解して考えてみる。「この部分は3時間かかるから、この日から着手すれば間に合う」という風にね。そうすると、なんとなく見えてくるようになって、あまり不安ではなくなりますよね。
井上 なるほど、分解することで「見える化」され、不安も解消されるということですか。
小野 きっと、見えないから不安になると思うんです。だったら、見えるようにすればいい。そのために分解するんです。私は理解するために分解するんですが、不安解消のためにも分解は効果的だと思います。ところが、不安な人ほど、こういうことをやらないんですよね。そういう人は、「途方もなく大変」と思った瞬間に思考停止しているような気がします。
井上 小野さんが「理解したい」と思うのは、どういう欲求なのかしら。「正体を見極めて、自分の中に取り込みたい」という感じですか?
小野 正体を見極めたい理由は2つあって、ひとつは好奇心。見てやろう、わかってやろうという気持ちがあります。もうひとつは、怠け者だから。
井上 「怠け者だから、正体を見極めたい」って、どういうこと?
小野 なにか体験をするとき、毎回ゼロからスタートするのって大変だし不安ですよね。そうじゃなくて、今、体験したことの本質、つまり「原理」を理解し、そこから「原則」を作っておけば、それはきっと別の体験でも応用できるはず。そうすれば、初めて体験することにさほど不安を感じないと思うんです。
井上 なるほど。でも多くの人は、小野さんみたいに分析しないし、そこから原理を理解することもできないですよね。
小野 というか、そもそも万人にとってそんな必要かあるのかってことですよね。そこまでやりたいか、どうか。それは、人によって違うかもしれないし。ただ、もしうちの会社で仕事をするのであれば、課題を分析して理解する力は求められるし、そうでないとしても、私はやっぱり、誰だって成長したほうがいいと思っているんです。
井上 成長とは?
小野 自分の能力をどんな風に使うかってことかな。せっかく能力があるのに、それを眠らせておくのはもったいない。ただ、私がその人をみて「能力が眠っている」と思っても、その人自身が「使いたい」と思わない限り、どうにもならない。
井上 人はなかなか変わりませんよね。
小野 誰かを変えてやろうと思うなんて、僭越ですよね。実は私、最近までどこかで「変えてやろう」と思っていた気がします。気持ち的には「変わってほしいなあ」なんだけど、それが「変えてもらうためにどうすればいいか」という形になって出てしまう。ついつい、相手に介入してしまう。
井上 経営者でもありますから、そうなってしまいますよね。ほったらかしにしておくことはできないし。
小野 実は私、スキルはどうでもいいと思っているんです。成長の話をすると、よく「スキルを身につけたい」という方向になりがちですが、スキルなんてなくてもいいんです。それより必要なのは、自分で自分を成長させられる力を身に着けること。自分のことをちゃんと客観視し、伸ばしていくことができれる力があれば、それだけでいいと思うんだけど。
井上 自分のことを客観視するって、メタ認知のことでしょうか。
小野 なにかが、メタ認知の妨げになっているんだと思います。その一例ですが、社員を見ていて、どうもうまくいっていないような気がすることがある。でも本人に聞くと「うまくいっています」というんです。つまりその人は、現状うまくいっていないということが、ちゃんと認識できていない。
それにはいろいろ理由があると思うんですが、そのひとつが「上司に認められたい」という思いかもしれない。私に対して萎縮してしまって、現状うまくいっていないという事実を、そのまま受け止めることができないということも、もしかするとあるのかなって。もちろんこれは私の想像で、本人に確認したわけではないので正解かどうかわかりませんが。
井上 なるほど。そういうとき、小野さんはどうするんですか?
小野 フィードバックします。たとえば、会議でその人が話していることが支離滅裂でよくわからないと思ったら、その言葉を書き起こし、「あなたが言ったことを書いてみたよ。これ、わかる?」と。
井上 うまくいっていない状況を、そのままフィードバックしたんですね。その結果、どうなりました?
小野 そのときは黙っていたのだけれど、別の人と話してアドバイスをもらったり、考えたりと、その人なりにいろいろやってみたようです。翌日には、きちんと話せるようになっていました。私はその変化をキャッチし、「今日と昨日が違う。今日はいいね」とポジティブにフィードバックしたら、それをきっかけに劇的に成長しました。その様子をみて、やっぱり萎縮していたのかなと。
私は、社員に鍛えられていると思います。それは今の社員だけでなく、会社を辞めては独立している人も含めてね。彼らからは、いつもネガティヴ・フィードバックを受け取っています。これが、とてもありがたい。
井上 ネガティヴ・フィードバックって、あまりおもしろくないというか、不快に感じませんか?
小野 私の強みは、それをあまり不快に思わないということにあると思います。言ってくれた人に対して不快とは思わない。一番意識しているのは「裸の王様になるのはいやだな」ということ。だから、できるだけ言いやすい人間関係でいたいと思っています。
井上 それは確かに強みですね。私はムッとしてしまうかも。
小野 大事なのは、関係性ですね。言われてムッとすることも、もちろんあります。でも、そのときどこに立ち返るかというと、根底にあるのは「愛」。愛があれば、最終的には分かり合えると信じています。
井上 たとえ愛があっても、うまく伝わらないことってありませんか? たとえば、相手が攻撃的な人だったりすると、話しているうちに激昂したりして。
小野 ありますね。もうひとつ、私の嫌いなパターンがあります。私、議論するのはいいんですけど、その中に論破しようとする人がいると嫌になってしまうんです。そういう人は、話をする目的が「自分の正当性を主張して相手を打ち負かしたい」ですよね。こんなに馬鹿らしいことはないと思う。議論するのであれば、まずその場での対等性とか、リスペクトとか、違いを尊重し合うとか、そういう要素が必要になると思うんです。
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