【#0022】”ロードウォーリアー”竹村譲氏と「カレーの東洋」との深いつながりとは

1000人に会いたい PJ

「DOS/V」、「ThinkPad」、そして「WorkPad」。一見あまり関係なさそうに見えますが、実はすべて元日本IBMの竹村譲さんがこの世に送り出したもの。竹村譲さん、別名「T教授」「ゼロ・ハリ」さんは、時代に先駆けてモバイルワーキングスタイルを提唱した「ロードウォーリアー」。今でも精力的に執筆活動を続けつつ、大学講師やIT企業の顧問を務め、熱中小学校の運営にも携わっています。そんなエネルギッシュな竹村譲さんに、2000年頃のモバイルワーキングスタイルについてお話を聞きました。

井上 なぜ竹村さんはモバイルが好きなんですか?

竹村 1990年頃、シアトル出張の際にエプソンの「Word Bank note」を持っていったんです。本体にモデムカードが入っているため、どこでも通信できると思って持参したのですが、日本に居るIBM社員とメールのやり取りをするにはシアトルにあるIBM事業所に行かなければならない。それは面倒なので、宿泊ホテルの部屋にある電話回線を使って、米国パソコン通信の「CompuServe」経由でパソコン通信「NiftyServe」に接続し、日本の同僚にメールで連絡しました。

このとき感じたのは「これからは、こうでなければ」ということ。セキュリティをガチガチに固めた社内ネットワークは安全かもしれないが、通信の利便性が損なわれる。そうじゃなくて、いつでもどこでもネットに接続し、情報を交換できるようにしていかなければならないんじゃないかと。そこで、あらゆる場所から自在にネットワークに接続するための方法を指南した「ロードウォーリアハンドブック」という本を1995年に執筆し、モバイルワーキングスタイルを世の中に提示したんです。

井上 なるほど。当時、モバイル環境はいかがでしたか?

竹村 初代ThinkPadである700シリーズが発売されたのが1992年10月。そのあとThinkPad 220、230Cs、そして95年には701csが発売されました。この頃にはノートPCが小型になり、バッテリーも持つようになって、モバイルワーキングスタイルを実践する環境が整ってきたんです。当時は、通信手段としてPCモデムカードと専用ケーブルで接続した携帯電話を使ってネット環境を実現するという方法が一般的で、ほとんどの人がそれを使っていましたね。

さらに2001年には、無線LANを内蔵したThinkPad s30を発表。1.45kgという軽量サイズで、バッテリー持続時間は標準で約6.5時間。これなら、充電せずに何とか1日使えます。このポテンシャルを最大限に活かしたいという思いで、私は次の一手を打ちました。

井上 その一手とは。

竹村 ブロードバンドカレーというサービスです(笑)。知りません? 2001年に秋葉原に「カレーの東洋」という店があって、この店にイーアクセスのADSLをひき、そこに日本IBMのWi-Fiルータ内蔵ADSLモデムを設置して、誰でも無線LANが使えるお店にしたんです。

井上 知っています! 当時、話題になっていましたよね。私も行きました。なぜその店を選んだのですか?

竹村 日本IBM社員は、ビジネスパートナーだったT-ZONE本店の一部フロアによく伺い、そこで商談をしていました。そこに時々コーヒーを出前してくれていたのが、隣のビルにあった「カレーの東洋」さんだったんです。で、僕たちもちょくちょくお店にいってThinkPadで仕事をしていたんですが、あの店って地下にあったでしょう? 携帯電話の電波が入らないんだよね。ネットを使うにはとても不便なんだけど、その一方で電話が通じないのは都合がよかった。だから「ここにWi-Fi環境おけばいいんじゃない?」ということになったんです。そうすれば、携帯電話で呼び出される危険はないし、自分たちは自由に通信を利用できる。……って、結局、自分達のためなんだけどね(笑)。

サービスを始めるにあたり、ネット使用料はとらずに「カレーを食べてくれればいい」というようにした。僕らの狙いでは、これからWi-Fi内蔵したノートPCを使うビジネスマンは増えるだろうから、Wi-Fi環境目当てにこの店に来る客が増えるんじゃないかと。ついでに電源の無料使用やACアダプターの貸し出しもあったし。

井上 今はそういう店、たくさんありますよね。それを2001年にやっていたんだ……。

竹村 それだけだと店長に悪いから、2002年には日本IBMの新ノートPC「モスキート」の発表会を「カレーの東洋」でやりました。「ThinkPad誕生10周年、社運をかけた新プロジェクト!」と銘打って各メディアにプレスリリースを送り、その発表会を「カレーの東洋」で行うことにしたんです。発表会に参加すると、もれなく製品本体が全員に配布されるんですが、参加するには必ずカレーライスを注文しなければならない。アスキーの遠藤さんは「有料の製品発表会なんて初めてだ!」って今も言ってますね(笑)。

井上 「モスキート」? そんなノートPC、あったかな……。

竹村 1995年に発売された「ThinkPad 701C/CS」と同じバタフライキーボードを備えたノートPC。ただしガワだけで、CPUは入っていません。自分で好きなCPUを入れてもらって構わないけれど、相当たいへんな作業になると思う。内蔵ストレージは、写真一枚分。画面を写真立てとして利用することもできる。ざっと説明すると、そんな製品です(笑)。

井上 それって、つまり……?

竹村 ThinkPad 701Cの65%サイズのプラモデルです(笑)。発表会にきてもらった方全員にプレゼントし、「その製品は本日から10日間はほかのどこにも出しません。ですから、その間に完成させて媒体に掲載してください」と伝えたところ、みんなおもしろがって作り、ちゃんとネットに載せてくれました(笑)。

井上 おお、すごい悪ふざけ!

竹村 そう。あの頃は、そういうおもしろいことをいろいろやっていたんです。

このあと、竹村さんのお話はまだまだ続きます。後日、続編(さらに続々編?)も公開します!

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

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