覚えていますか?
タイヤの空気圧やエンジンオイル、クーラントにブレーキフルードなど、ひとつひとつ目視確認するアレやコレ。教習所で始業前点検と教わる一連の行為ですが、常に実践している現行車オーナー様はあまりいないのではないでしょうか。例えるなら、音楽を聴くために、真空管を温める所から、埃を丁寧に拭ってからレコードに針を落とすまでの作業と同じ。マニアにとって至福の時間でも、普通の人にとっては面倒くさいだけ。車検と一年点検を受けているのだから自分で点検なんて……と、そんな風に考えていると思います。
実はそれ、決して間違いではありません。今の車はよくできていて、センサーが何かしら異常を感知すると、問題個所や原因を警告灯やアラートで的確に表示し、注意を促してくれます。 わざわざボンネットに頭を突っ込んで、手を油まみれにする必要などありません。だから、デートの約束に思いをめぐらせてバニティーミラーに映したメイクをチェックしたり、終電ギリギリに完成した資料を忘れていないかと、心を砕く余裕ができたのです。
つまり現行車の場合、これから乗る車そのものに対して危惧する必要はなく、移動した後のことにのみ注力すればいい。自動車メーカーの製造技術が進化し、故障やトラブルが起きにくくなったことで、全てのドライバーが安心して安全に目的地へ移動できる車を提供できるようになったのですから。これは実に驚くべきことで、私が子どもの頃は、箱根へ向かう道中にボンネットから白煙を出してエンコしている車や、路肩で外したプラグをブラシで擦っている光景をよく見かけたものです。
(もはや、エンコやエンストという言葉自体が死語ですね)
この50年間に著しく進化したものは、コンピューターと、軽く強く腐食しにくい新素材。そして、これらが使われているものが現行車です。40~50年前の車には、こういったものは使われていなかったため、ドライバー自身がすでに起きている不具合を見つけ、近い将来に起きる問題を予見し、運転する前に取り除いてあげる必要がありました。それが、冒頭でお話した「始業前点検」です。
ざっとですが、チンクの始業前点検項目をリストしてみました。
01) タイヤの空気圧、異物が刺さっていないか目視
02) 車体下の床にオイル漏れがないか目視
03) リア(プラグケーブルの緩み、ベルト弛み、オイル残量チェック)
04) フロント(ブレーキフルード、ヒューズ切れ)目視
05) キーをON、各メーター針、ランプのオン確認
06) クラッチを切り、シフト・ニュートラルを確認
07) 電圧規定値チェック、チョークを引き、エンジンスタート
08) エンジンが始動後チョークは戻し、安定する高め位置にアクセルを固定
09) ウィンカーを切り替え、左右、前後の球切れ点滅チェック
10) ハザードスイッチを入れ、前後左右同時点滅チェック
11) ブレーキの踏み代、ブレーキランプの点灯チェック
12) ライトスイッチ(Hi, Lo)、メータースイッチ、点灯チェック
13) アイドリングが安定、油温がゆっくり上がり、油圧が下がり始めるのを確認
14) ブレーキ、アクセル、クラッチワイヤー、スプリングに違和感チェック
15) エンジンに異音、異常な振動がないかチェック
16) サイドブレーキを戻して発進。すぐにブレーキを踏んで効きをチェック
文字にすると長くなってしまいますが、実際にやってみると、暖気運転の間に終わってしまいます。 私は、始業前点検項目を行う時間がとても好き。パイロットがするチェックリストさながら、これから走り出す時の高揚感のようなものを感じつつ、ひとつひとつ丁寧にやっています 。
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