【#0030】「若い世代が自分らしく生きられる社会にしていきたい」棒田明子さん

1000人に会いたい PJ

私、日経DUALという媒体で、「ばあばの本音」という企画を担当しています。その記事の監修をお願いしているのが、今回ご登場する棒田明子さん。彼女は「孫育て・ニッポン」の理事長として、全国各地で「孫育て講座」や行政との共同プロジェクトを行うなど、産後ママの子育てを支援する活動を精力的に行なっています。棒田さんの情熱の源がなんなのか知りたくて、いつもお忙しく飛び回っている棒田さんをなんとかつかまえてインタビューを決行! 子育て環境のみならず、棒田さん家庭のユニークなコミュニケーションスタイルなど、興味深いお話をいろいろと聞かせていただきました。

井上 棒田さんが理事長を務めている「NPO法人 孫育て・ニッポン」では、母親ひとりが子育てを抱え込むのではなく、パパやおじいちゃん、おばあちゃん、そして、地域の中で子育てできる社会を目指しているんですよね。

棒田 はい。いざという時に助けてくれるのは「家族」だけじゃない。人って、お隣さんとか、近くに住んでいる人とか、いろんな人と関わって生きてますよね。普段、よく接している人が、日常生活を送る上で困っていたら、できる範囲で助けたいと思うもの。その助けは、物であったり、事であったり、心であったり……。例えば、私にはずっと一緒にテニスをしてきた仲間がいて、今ではみんなバラバラだけど、何かあったら心の拠り所にもなるし、同じマンションや近所の商店街にも、子どもたちの成長を喜んでくれる人がいる。

井上 そう、昔は近所の人たちと一緒に子育てしたりしてましたよね。私が子どもを育てるときもそうだった。近所のおばちゃんたちが、みんなで赤ちゃん抱っこしたり、おやつ食べさせてたり、たまに別の家で昼寝していたり(笑)。

棒田 そうですよね。ご近所だったり、昔からの友だちだったり、遠い親戚だったり。そういう関係があちこちにいろいろあって、いろんな人たちに囲まれ、可愛がられたり、遊んでもらったりしながら育っていくほうがいい。いろんな人が一緒に子どもに関わっていけるような、そんな社会であってほしいと思うんです。

井上 それって、「家族」が広がっていくようなイメージですね。

棒田 家族像って、かなり国の施策に影響されていますよね。たとえば昭和のはじめには、高度成長を支える家庭を作ろうとして、夫はひたすら仕事に励み、妻は子育てしながら家を守る。そうやって、効率よく経済成長させようとしていたんだと思います。そう考えると、「家族」の形ってその時代によってずいぶん変わるんだと思う。

井上 日本人って真面目だから、みんなその流れをきちんと守ってきたんですね。

棒田 そうそう。で、今は「一億人総活躍社会」でしょ。あんなに「女は家庭を守ればいい」なんていっていたのに、今や「男も女もみんな働くんだ!」なんて言う。そうすると、今度は子育てしながら家を守る主婦が、なんとなく居心地悪いような気になる。そういうのって、なんかおかしいですよね。価値観の幅がとても狭くなっているような気がします。

井上 価値観を広げるにはどうすればいいんでしょうか。思い込みや枠組みをなくせばいいのかな?

棒田 枠組みがないと困る、不安になる人もいると思うから、なくさなくてもいいんですよ。ただ、竹で作る枠組みではなく、パンツのゴムで作った枠組みにして、状況に応じて柔軟に形が変えられるようになればいい。

井上 棒田さんの家族はどうですか?

棒田 夫はとても日本人的な性格で、彼の枠組みはたぶん竹(笑)。パンツのゴムで枠組みを作っている私とは、正反対なんです。たとえば会話していても、彼は日本人らしく「言わなくても察してほしい」タイプ。でも私は、自分の気持ちは相手にちゃんと言わないと伝わらないと思っている。だから、夫や息子たちにはしつこいぐらい質問して、どうして欲しいかを聞き出します。しつこすぎて、息子からはよく「うざい」といわれるけど(笑)

井上 どうやって聞き出すんですか?

棒田 息子たちには、小さい頃からよく「どうしたいのか、書いてみて」といって書かせました。たとえば「野球がうまくなりたい」と言ったら、「どんな風にうまくなりたいの?」と質問する。それをなるべく具体的な行動に落としていき、それを紙に書く。文章にしてもいいし、箇条書きでもいい。そうやって自分の気持ちを紙に書くことによって、自分がやりたいことが明確になり、もっと深く考えられるようになる。この過程が大事なんです。

井上 なるほど。自分の気持ちを客観視するんですね。それは確かにいいかもしれない。

棒田 書いた紙は、みんなが見えるところに貼って、ことあるごとにそれについて話をしたりするんです。そうやって何度も会話をすることで、はじめて相手が求めていることがわかる。それさえわかれば、あとは簡単。どうやればその夢が叶うのか、一緒にいろんなプランを考えて、その中から一番いいプランを選び実行する。

井上 そうやって、子どもたちに物の考え方も教えたんですね。棒田さんって根気があるんですね。

棒田 いえいえ、私はとても面倒臭がり屋なの。何度も言うのが面倒だから、と言うのが始まりだったような気がします。一番役に立ったのは、遠足や修学旅行の準備ですね。「必要なものを紙に書き、チェックしていく」ということをずっとやっていたので、いまや彼らの荷造りはメチャクチャ早いですよ。

井上 それは効果ありそう。うちも実践してみよう。

棒田 紙に書いて、貼っておけば「言った」「言わない」にならない。だから必ず、日付と名前は書くようにしていました。そうすれば、もう言い逃れはできない(笑)

井上 なるほど、言質(げんち)をとるんですね。棒田さんは、昔からきちんと自分の気持ちを言語化して相手に伝える性格だったんですか?

棒田 以前、1年間ほどオーストラリアで暮らしたことがあったんです。そこで学んだのは、自分の気持ちをちゃんと言葉にして伝えないとダメだということ。オーストラリアでは、何も言わずに黙っていたら、それはもう「いない」のと同じ。そうやって教えられたから、日本でもしっかり言葉にして伝えるように心がけた。夫からはよく「あなたのように思っていることをズバズバ言えたらいいね」といわれます(笑)

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

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