【#0031】「わかっちゃいるけどやめられない」薬物依存の世界を、鈴木輝一郎が語る

1000人に会いたい PJ

作家の鈴木輝一郎さんとは、約25年前にNifty-ServeのFbookフォーラムで言葉を交わして以来、長いお付き合いとなります。現在は作家活動を続けつつ「鈴木輝一郎小説講座」で講師を務め、これまで数々のプロ作家を輩出。著作「何がなんでも作家になりたい!」は、小説家を目指す人の必携本となりました。そんな鈴木さんが上京されると聞き、インタビューを決行。今回は、鈴木さんがボランティアをされている薬物依存リハビリ施設についてお話を伺います。

井上 鈴木さんは今、岐阜ダルクでボランティアをされているとか。岐阜ダルクとは、どんなことをする場所なのですか?

鈴木 さまざまな薬物依存症に陥った人達が回復を目指す民間のリハビリ施設です。

井上 なぜ鈴木さんは岐阜ダルクのボランティアをすることになったのですか。

鈴木 もともと私自身、アルコール依存症ったんです。で、家族から追い出され、なんとかしなければと思いながら車で走っていたら、大垣ルーテル教会が目に飛び込んできた。私は特にクリスチャンというわけではなかったのですが、なんとなく心惹かれて中に入り、牧師さんに相談してみた。その後、岐阜ダルクのボランティアをすることで、自分もアルコールからの断酒状態が維持できるようになりました。依存症の回復プログラムのお手伝いをするようになったことが大きかったかな。

井上 依存症の回復プログラムとは?

鈴木 依存症者(アルコールや薬物など)が集まり、みんなで輪になって順番に自分のことを話します。話している人以外はみんな聞いているだけで、批判や意見は言わない。ただそれだけなんだけど、効果があって、ちゃんとよくなっていくんです。

井上 今は鈴木さん、アルコール飲まれていませんよね。断酒プログラムでアルコール依存症治ったってことですか?

鈴木 うーん、「治った」というのは語弊があります。アルコール中毒や薬物依存などは「完治する」ということはない。私にしたって、11年前から今までずっと断酒を続けていますが、だからといって完治したわけではない。現在も断酒中という、それだけです。

井上 岐阜ダルクに来る人は、どんな人?

鈴木 アルコールやシンナー、覚せい剤、精神安定剤、睡眠薬、風邪薬、痛み止めなどの薬物依存や摂食障害、リストカット、窃盗依存症やギャンブル依存症など、いろいろです。

井上 薬物依存というと、最近よく「芸能人が覚醒剤を使う」というニュースを耳にします。

鈴木 薬物依存しやすいタイプには、ある程度の傾向はあります。美男美女で人目をひく人。感受性が強く、なにごとにも熱中するタイプ。俳優や音楽家などショービジネスに携わる人の中にはこういった人が多いですから、おのずと増えてくるんでしょうね。

井上 そうすると先天的な要因があるんですね。

鈴木 実は仕事で大成功している人は、こういったタイプが多い。つまり「熱中する」対象を仕事に向ければ、どんどん仕事ができてしまう。要は、何に集中するかってところが大事なのでしょうね。

井上 覚醒剤で何度もつかまってしまう人は、なぜわかっていてもやめられないのでしょうか。

鈴木 まず第一に「依存症は『わかっているけれどやめられない』という病気だ」と理解してください。そのうえで、覚醒剤をやった人に聞くと「人生観が変わるほどの多幸感がある」と。まあ、実際に逮捕されたりして人生そのものが変わるわけだけど(笑)。つまり、一度使ってしまうと、その幸福感が忘れられなくて、なにがなんでももう一度やってみたいと思うようになるんですね。そうすると、入手するために手段を選ばなくなる。もちろん、まっとうな社会生活はできなくなる。

井上 それでも、つい手を出してしまう人はいるんですね。

鈴木 覚醒剤というのは、「きわめて強力な精神安定剤」という側面もあります。重篤な犯罪被害などのPTSD(心的外傷ストレス障害)から逃れるため、薬物を使ってしまうんですね。でもそれって、その人が悪いわけではない。環境が悪くて、そうなってしまったんです。風邪やインフルエンザと同じ、病気にかかっただけなんです。だから、治療しなければならない。

井上 なんだかとても気の毒な気がします。

鈴木 誤解を恐れずに言えば、「薬があってよかったね」と思うことがあります。なぜかというと、もし薬がなければ、その人は生きていられなかったから。一番つらいとき、薬を使ってなんとか乗り越えられたから、あなたは今、ここにいる。そう思うと「薬があってよかったね」と思わなくもない。その上で、「今度は薬をやめなくちゃね」と。このあと、よりよい人生を生きるために。

井上 岐阜ダルクに入った人は、毎日どんなことをしているんですか?

鈴木 規則正しい生活をする。朝起きて、決まった時間に決まった場所に行き、いろんな遊びをする。遊ぶことは大事なんです。「薬物がなくても人生は楽しい」と知ることが、リハビリをするうえで重要なことでもあります。

井上 運営費用はどうやって捻出しているのですか?

鈴木 本人の入寮費(生活保護から負担、あるいは自己負担)に加え、ステップハウス「自立訓練事業所」の収入や、県からの補助。地方公共団体や民間企業などから助成金をもらったりしています。そのほかに、寄付金もあります。寄付してくださる方は、全く自分に見返りはないのに、毎月けっこうな数の寄付がある。私は会計管理も担当しているので、寄付の連絡が入るたびに感動しています。世の中、まだ捨てたもんじゃない。

井上 なるほど。寄付は誰でもできるんですか?

鈴木 できますよ。この記事を読んでいる人も、このURLにアクセスすればすぐに寄付できます。銀行振り込みのほかにクレジットカード支払いにも対応しているので、お気軽にどうぞ。

https://congrant.com/credit/form?project_id=866

次回は、「小説講座」を運営している鈴木輝一郎さんから「小説家になるために必要なもの」についてお話を伺います。

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

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