長く旧車を維持していると、悩みのタネのひとつや二つはあるもの。年を追うごとに困難になるパーツの入手、13年超のクルマに掛かる重課税、そして奥方さまの風当たりが日増しに強くなる……などなど。
どれも難題ですが、恐らく代表格としてあげられるのがクルマのサビ。鉄板から作られたクルマが錆びるのは当然ですが、近ごろは巷で錆びたクルマを見たことがありません。
梅雨ともなれば雨が降り続く高温多湿なお国柄。しかも、都内にあるほとんどの駐車場は屋根のない平置きが一般的。そんなクルマにとって過酷な条件でも、日頃、錆びたクルマを目にしないのは、ひとえに塗料品質と防錆塗装技術向上の恩恵を受けているからなのです。
「旧チンクは溶けるように錆びる」と形容した人がいます。放っておけば、あっという間にサビの塊なんてことになったら大変です。
この時代のクルマはボディの繋ぎ目や、鉄板を折り返した箇所や袋になった箇所は、雨水が溜まりやすく、錆の温床になる泣きどころが満載。最初は驚きましたが、そもそも外から雨が入ることを想定した水抜き用の穴があちこちに開けられているほど。だから、雨の日は絶対に乗らないと決めた旧車乗りの気持ちも良く分かります。
しかし私は、雨のドライブが大好きなのです。メトロノームのようにフロントガラスを拭うワイパー、その先に滲んで見えるテールランプ。そして、雨粒がクルマのボディーを叩く音。チンクの屋根はキャンバストップなので、「雨がふったら ポンポロロン」と、おじさんの傘という絵本に出てくる擬音を思い出す雨音が聞こえてきます。そう、チンクは雨のドライブがとっても楽しいのです。
今回は、雨の日に活躍するワイパーのお話。
今どきの車は、雨を感知すると雨の強さに合わせてワイパーを動かしてくれますが、チンクについているワイパーのスイッチはオンとオフだけ。さらに、調子が悪いときはスイッチをオフにした位置でワイパーアームが止まってしまうというありさま。
先代のオーナーは間欠ワイパー回路を取り付ける際にモーターの接点を磨いて、なんとかオートポジションを復活させたそうですが、ワイパーリンケージとモーターを分解清掃してみました。
一般的なパラレル方式のワイパーは、一方向へ回転し続ける駆動モーターの回転軸を直角に変え、往復運動するリンクを介して左右約90度に回って戻る軸にアームを取り付けたもの。チンクからこのワイパーリンケージを取り外した時、「よくこんなシンプル構造でちゃんと機能するものだな」と感心しました。
ワイパーのスイッチを切ると必ずワイパーが格納された位置(図で言えば上の位置)で止まるのは、理由があります。
回転するギアの中心部には、カムが付いています。スイッチを切ったとき、展開された位置から格納位置に戻る間はカムがバネを押し込むため、電気が流れ続けます。これによって、ワイパーが元の位置に戻るという仕組みです。このオートポジションが効かない時は、カム、板バネの破断、接続回路の電通を調べてみてください。
もう一つ、単純だけど賢い工夫がありました。
ワイパーが格納された位置でぴったり止まると、ワイパーブレードゴムのしなり方向は拭き戻った位置のままなので、次回、拭き始めるときは、必ずブレードのしなり方向をパタンと変えるようになっています。
わかりにくいので、図解してみましょう。
展開位置から戻ったところでぴったり止めてしまうと、ブレードゴムは、図の下のように、下向きに引きずられたまま。そこで、もう少し回した位置で止めると、ブレードのしなりは上方向と反対に残る角度へと変わって停止。回転軸に対してリンクを一直線にせず、少し角度が付いているのはそのためです。個体差もありますし、この微妙な角度でワイパーが戻ってから止まるタイミングを決定するので、トライ&エラーの作業です。
以前、オートポジションを直そうと思った際、最初はくたびれたモーターそのものを交換してしまえばいいと考えて発注したのですが、そこには大きな落とし穴がありました。現在リプロダクションされているワイパーモーターは、回転軸にリンケージとを繋ぐためのプレートを取り付けるタイプ。
それに対し、私のチンクについていた古い世代のモーターは、回転軸にプレートが直接溶接されたタイプ。新旧のモーター回転軸の互換性がないので、新しいモーターにプレートだけを移植することはできません。だから、一緒にオーダーする必要がありました。
余談ですが、チンクは製造された年代やモデルによって、使われているパーツが微妙に違います。オーナーが代わるたびに違うパーツに交換されたケースもあるので、実際に取り外し、分解して比べてみなければ分からないことが結構あります。
私のチンクは、使われている接点やパーツが変更されたりしていましたが、オートポジション用のカムなどの基本的な機構は同じ。古いモーターも分解清掃、接点の半田付け直しなどでリフレッシュできたので、それぞれ組み付けてから様子を見て、最終的に古いものに戻しました。新しいモーターが元気過ぎるのか微妙にショックが強く、作動音が大きいのがその理由です。
そしてワイパーブレード。旧Fiat500用のワイパーブレードはリプロダクションのものが入手可能。後は汎用の短めの物を工夫して取り付けます。
雰囲気重視ならメッキブレードも良いのですが、品質がイマイチ。アームの取り付け部のガタや加工が荒いので、実際に使用するとビビリなど良くないことがあります。
また、同じブレード長でも、アームの取り付け位置が微妙に違うのがお分かりだと思いますが、写真の左部分の長さが長過ぎると、フロントのガラスフレームの上、もしくは下部に当たる問題があります。うちのは旧MINI用として入手したものがピッタリで、作りもシッカリしていて、厚み、仕上げも綺麗だったので、ボッシュのブレードアダプターと合わせて使用することに決めました。
何事もポン付けが厳しい旧車ですが、言い換えればひと工夫する楽しみがあります。現行車では、気に止めることもないワイパーですが、チンクでは自分で工夫したワイパーが、スムーズに動いて、きちっとポジションに戻って止まるだけで大満足!
こんな当たり前のことが喜びになる旧車生活。あなたも始めてみませんか?
(注:ただし、失敗した時はすぐに忘れること!)
コメント