【旧車生活】オーバークロック

スタッフコラム

電気街口を降りて、ダイビルからUDXにいたる場所。そこはかつて、広いバスケットコートでした。人が行き交う通りには、まだ、アニ声でティッシュを配るメイドさんの姿はありません。はっぴを着た威勢のいいお兄さんが安売りのチラシを配り、ビルの屋上から、石丸電気やラオックス、そしてオノデンの看板がこちらを見下ろしていました。今でも秋葉原を歩くと、当時の懐かしい風景が脳裏をよぎることがあります。

コスタリカ製Intel Celeron300Aリテールパッケージ。
この名称にピンときた方は、秋葉原へ足繁く通われたお一人に違いありません。Celeronは10万円の値をつけたPentium2の約1/5のお手頃価格。それが工夫次第でP2と同等か、それ以上のクロックで動作するCPUに化ける! そんなニュースに興味を持った私は先達に倣い、秋葉原へパーツを購入に行きました。コア電圧やクロックをBIOSで変更可能なマザーボード、素性のいいCL=2のSDRAM。巨大なヒートシンクや強力な冷却ファン。そして良い電源の載ったATXケース。パーツ屋さんはまさにワンダーランド。今でも工具屋さんへ行くと同じ症状が出ますが、懐が寒くなるのを忘れてワクワクしながら見て回ったものでした。

仕事から帰ると、夕食もそこそこにCPUの表面磨き。マザーボードに震える手で半田ゴテを入れては組み付ける毎日。気がつけば、窓の外が白むこともたびたびでした。こうして仕上げたPCのスイッチを入れ、まずはBIOS通過が第一関門。ハードディスクがカリカリ音を立て始め、Win95の起動画面を固唾を飲んで見守ります。やがて何事もなくデスクトップが上がった時は「いいぞ!」と思いながら気持ちを引き締め、superπやベンチマークを走らせませす。無事に良い結果が出たときは思わずガッツポーズ。一度成功したらもう一段高い設定を試し、その結果に一喜一憂した日々でした。

やがて嘘のように熱は覚め、残ったのはダンボール箱に投げ込まれたパーツの山。ベンチの結果が良くても、費用的には最初からメーカー製の高機能PCを買ったほうが安いくらい。それでも、簡単に手に入れたものでは味わえない満足感は得難いものでした。考えてみれば、オーバークロックと旧車との付き合いは、どこか似ている部分があります。もちろん古いクルマに鞭打って無理をさせるわけではありません。自分で取り付けたパーツが役割通りの機能を果たす。「当たり前のことが当たり前に動く」という、たったそれだけのことですが、できた時はたまらなく嬉しい。なんだかんだ言っても旧車は「1/1スケールの玩具」なのかもしれません。

さて、チンクは空冷(油冷)エンジンなので、夏場の冷却を考えた大きめの4.5Lのオイルパンに変更しています。アバルトレプリカのオイルパンはアルミフィンが付いていまが、そこにCPU用のアルミヒートシンクを耐熱性金属接着剤で固定しました。効果のほどは疑心暗鬼でしたが、高速走行中に油温メーター読みで3度ほど下がりました。さすが精密アルミ加工のCPUヒートシンク、走行後はチンチンに熱く焼けて触れられないほど。 

もう一つは、効果的にオイルパンを冷却できない渋滞時の対策。風がダメなら水を掛けて冷やしてしまおう的な思いつき。オイルパン近くに固定した噴霧ノズルからホースを延長して床の水抜き穴を通って室内に引き入れ、噴霧スイッチのついたグリップに接続。グリップからは水タンクに繋がっています。ノズルの角度を変えられるので、オイルパンの底面全体に濃密なスプレーを連続12~13分噴霧できました。こちらの効果は噴霧している最中は、グングン熱が下がります。また、走行中は風が当たって気化熱を奪うのか、停止中より冷却効果は高い結果に。しかし、たった10分ほどの効果なので、緊急用にしても心許ない対策でした。  

そんなダメダメ対策も含め、アイデアを形にするのは楽しいもの。二十数年前と比べて体力と気力が衰えたので熱量は違いますが、旧車との関わり合いは、当時の気持ちを思い起こさせてくれます。寝食を忘れるくらい夢中になれるものがあるというのは、幸せなことですね。ただし、中腰でチンクの整備をすると、翌日必ず襲ってくる筋肉痛だけは辛い。さて、どう贔屓目に見ても自分の身体は未整備の旧車並み。朝のランニングを再開しなければと思いつつ、寒い、眠いで、すぐに気持ちが萎えてしまう今日この頃です。

水瀬 涼介

頭のなかにある景色を言葉にしていく楽しさを真花さんに教わり、 「カタチとして残るもの」へのあこがれを抱いてマイカのメンバーに加わった。趣味は愛する旧車のメンテナンス。 愛車は1971年式のFIAT500-L●これまでの主な仕事 外資系物流業界に長く従事。システム部、キーアカウント、4PLなど社内のあらゆる部署を経験したオールラウンダー。

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