【コラム】日常の風景の向こう側に、うっすらと「死」が透けて見えるということ

スタッフコラム

3月20日、ついにワニくんが亡くなりました。なんのこと?と思う人、ぜひこちらをご覧ください。

きくちゆうきさんのTwitter

私がこのワニくんに気づいたのは、ごく最近のこと。ある編集さんが「あれはうまい仕掛けですよね」と話しているのを聞き、興味を持ったんです。

さてこの漫画、なにが「うまい仕掛け」だったのでしょうか。私は、なんといっても「タイトル」だと思っています。

タイトルは、「100日後に死ぬワニ」。最初に「このワニは100日後に死ぬよ」と宣言することで、読者はみんなワニの運命を知ります。しかし、当人であるワニくんはそのことを知りません。

そうすると、ワニくんが過ごす100日間の当たり前(ほんと、めちゃめちゃ普通です!)な日々が、読者の目にはちょっと違って見えてくる。いつも、4コマの向こうにうっすらと「THE END」という文字が見えてしまうような。だから、なんでもないシーンがとても切なく見えてしまうというような。

考えてみると、これってもう「神の視点」ですよね。

そう。作者がつけたタイトルによって、私たちは自ずと「神の視点」を持たされてしまったんです。つまり作者は、漫画の登場人物だけでなく、読者である私たちの視点までコントロールしていたってこと。それも、ただタイトルに「100日目に死にます」と宣言するだけで。

これ、すごいことだなあと。よく思いついたよなあと。神の視点になってしまったからには、もうしょうがない。彼の日常を見るたび、読者はみな彼の死を意識し、常に彼の日常の向こうに「死」を見てしまうんです。

でも考えてみれば、これって特別なことではない。ごく普通のことですよね。私たちだって、いずれ死ぬんですから。そんなこと、みんな知っています。違うのは「あと何日」ということを私たち自身が知らないということだけ。まるで、あのワニくんのように。

死も、変化のひとつである。私は、この漫画を読んでそんなことを思いました。日常の先に、死はやってくる。私たちはみんな、諸行無常の世界に生きている。そのことを、こんな斬新な手法で読者に突きつけた「きくちゆうき」さん、すごいです。まんまとしてやられました。

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

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