【ちょっと宇宙 行ってきます】Vo.1 果てしなき落下への挑戦

レビュー&コラム

■ちょっと宇宙 行ってきます

今回から別冊マイカでPCゲーム「Kerbal Space Program」(カーバル・スペース・プログラム、以下「KSP」)の体験記を書かせていただくことになりました、松村武宏と申します。いつもは「価格.comマガジン」で格安スマホ関連の記事を書いたり、「sorae 宇宙(そら)へのポータルサイト」で天文・宇宙開発関連の記事を書いたりしています。

はい。わたくし仕事で宇宙についての記事を書いているのにゲームでも宇宙に行ってしまうくらいの宇宙好きです。

KSPは地球に似た架空の惑星「カービン」を舞台に、NASAやJAXAのような宇宙開発組織を指揮して、デフォルメされた太陽系の惑星や衛星に宇宙飛行士や探査機を派遣して遊ぶことができるシミュレーションゲームです。

Kerbal Space Program

シミュレーションゲームとはいいますが、KSPは個人的に「宇宙版マインクラフト」と呼んでいるくらい気軽に楽しめるゲームだと思っています(本当?)。もちろん、宇宙開発に関心があれば、現実の宇宙船や宇宙ステーションを再現して大きな満足感を得ることも可能です。

これはロシア(旧ソ連)の「ミール」宇宙ステーションと「スペースシャトル」のようなものを再現した時の様子。ミールは1990年に当時TBSへお勤めだった秋山豊寛さんが同局の宇宙特派員として数日間滞在したことがありますので、その名をご記憶の方もいらっしゃるのではないでしょうか。もう30年も前のことなんですねえ。

■サイエンスモードでニューゲームをスタート

さて。KSPには予算などの制限がなく好きなように遊べる「サンドボックス」、予算・技術開発・名声の概念がある「キャリア」、予算は無制限だけど技術開発が必要な「サイエンス」の3つのゲームモードがあります。

最初から強力なエンジンや制御装置が使えるサンドボックスで遊ぶのもいいんですが、せっかくなので使えるパーツがちょっとずつ解禁されていくサイエンスモードを選んで、経験とともに発展してきた宇宙開発機関っぽさも体験してみることにしましょう。今回のセーブ名は「mica」に決定。

なお、私はKSPに「mod(モッド)」と呼ばれる有志の手による追加要素を幾つか導入させていだたいております。そのため、mod未導入のKSPとは異なる部分があることをあらかじめお断りしておきます(たとえば上のスクリーンショットではカービンの大気に雲が見えますが、本来のKSPに雲はありません)。

今体験記は厳密なチュートリアルや攻略レポではなく、「こういうゲームがある」「こんなふうに楽しく遊べる」ことがなんとなくお伝えできればいいなと思っておりますので、ゆるくお付き合いいただければ幸いです。

というわけで、久しぶりにまっさらなカービンの「KSC(カーバル宇宙センター)」に降臨。NASAにある程度詳しい方ならピンと来たのではと思いますが、ケネディ宇宙センターと同じ略記です。

宇宙船や探査機の追跡を行う「トラッキングステーション」を開いたところ。軌道上にはまだ何もありません。これからカービンの周辺をはじめ、太陽系のいたるところに探査機や宇宙飛行士を送り込むことになるかと思うとワクワクします。

こちらはカービンの第一衛星「ムン」。現実の「月(ムーン)」を模した天体です。NASAのアポロ計画にならい、当面はムンへの有人着陸を目標としていきましょう。

KSPはいわゆるオープンワールド的なゲームなので、実装されている天体のどこにでも行くことができます。飛行機を作ってカービンの極地を探検するのもいいですし、ムンの裏側にベースを建設して宇宙飛行士を何人も常駐させることだってできます。

こちらは「カーバル」、KSPにおける人類のような存在です(スクリーンショットを撮ろうとした瞬間に背中を掻くんじゃない)。カーバルには「パイロット」「エンジニア」「科学者」の3つの役職があり、どの役職でもできることもあれば、いずれかの役職でなければできないこともあります。

宇宙船に乗せる人員構成も好きなように選べますが、私はなんとなく各役職を1人ずつ乗せることが多いです。

■マイカ1号:弾道飛行

サイエンスモードやキャリアモードでは、ある時点で使える限られたパーツで宇宙船を作り、飛行中や着陸時に実験装置を動かしたりカーバルにレポートを書かせたりしてサイエンスポイントを稼ぎ、サイエンスポイントを消費して技術開発を進め、開発した高度なパーツを使った宇宙船を作り……という手順を繰り返して、太陽系の探査を進めていくことになります。

最初に作れるのは、上のスクリーンショットくらいのささやかな機体です。1人乗りのカプセルに一番小さな固体燃料ロケットをくっつけただけというシンプルなもので、宇宙空間には届きません。

記念すべき「マイカ1号」のリフトオフ!

果たしてこの機体は高度何kmまで駆け上がることができるでしょうか?

高度5km付近で燃料切れです。ただし勢いがついていますので、最高到達高度は7kmちょっと。とはいえカービンの大気圏は高度70kmまでありますので、10分の1くらいしか上昇できませんでした。

マップビューで「マイカ1号」の軌道を確認すると、こんな感じ。撃ち出された砲弾のような放物線に沿って飛行することから「弾道飛行」と呼ばれます。

パラシュートを開いて宇宙センターに帰還。

今回の飛行でサイエンスポイントが10ポイント稼げたので、研究棟で技術開発を進めて新しいパーツを解禁し、次のロケットを設計していきましょう。

■マイカ2号:弾道飛行

1号で稼いだサイエンスポイントをもとに開発された「マイカ2号」のリフトオフ!

今回は小さいながらも3段式のロケット。燃料が尽きたエンジンと燃料タンクを切り離すことで機体の重量を軽くしていき、同じエンジン、同じ量の燃料でもより速く飛ばすことができる、ロケット作りの基本テクニックのひとつです。

ただし最高到達高度は60km弱。単純に燃料が増えたことと多段式を採用したことで1号よりもずっと高くまで飛べるようになりましたが、宇宙空間にはあと10km以上足りません。「人工衛星」になるには高度を稼ぐだけでなく水平方向への加速もしなければならないので、「マイカ2号」ではまだまだ力不足です。

最高到達高度付近で地上を見下ろすとこんな感じです。ずいぶん高くまで上昇できた感じがしますが、水平方向への速度がまったく足りない……。

そのまま地上に無事帰還。今回もサイエンスポイントを稼いだので、もっと強力なロケットを設計するぞ!

■第一宇宙速度のはなし

地球を周回する人工衛星は、物理的には「落下」し続けています。私の大好きなアニメ映画『オネアミスの翼 王立宇宙軍』の主人公シロツグ・ラーダット(声:森本レオ)の言葉を借りれば「上げるんじゃない。地球の丸みにそわせて、落っことすんだ」。

3つ上のスクリーンショットで描画されている「マイカ2号」の弾道軌道がどんどん横に伸びるように加速を続けていくと、ある速度に達したとき、軌道がカービンをぐるりと一周して円を描くようになります。このとき、打ち上げられた宇宙船が大気圏の外にあれば、大気に邪魔されることなく、永遠にカービンを周り続けるようになります(※)。

この速度は「第一宇宙速度」と呼ばれていて、カービンの場合は秒速だいたい2.2km、地球の場合は秒速およそ7.9kmです。当面の目標は「ムンへの着陸」ですが、短期的な目標は「第一宇宙速度を達成してカプセルを人工衛星にする」ということになります。

※…現実の世界では希薄な大気の抵抗によって日々ちょっとずつ減速されてしまい、放っておけば大気圏に突入してしまうので、国際宇宙ステーションなどでは補給船のエンジンを使って定期的に速度を回復させています。

■マイカ2.5号:弾道飛行

もっとパワフルなロケットを! Moar Boosters!!!

……と思っていましたが、新しい実験装置の開発を優先したためエンジンは強化できず。そのかわりに1段目の固体燃料ロケットを7倍に増やした「マイカ2.5号」でリフトオフです。

同じエンジンやロケットステージなどを束ねたロケットは「クラスターロケット」と呼ばれ、有名なロシアの「ソユーズ」ロケットや、一部とはいえロケットの垂直着陸再使用を実現させたスペースXの「ファルコン9」ロケットなど、古今東西で広く採用されています。

お手軽な改修の割にクラスター化の効果は大きく、1段目だけで高度19kmに到達。これは宇宙空間いけるのでは?

3段目燃焼終了。最高到達高度は101km、宇宙空間到達!

人工衛星にはなりませんが、「マイカ2.5号」は軌道の一部が宇宙空間に達する弾道飛行を実現しました!

思い切って3号とかにしておけばよかった。

ボブ・カーマン飛行士もニンマリと船外活動。現在高度91km。 このクラスター化を応用すれば今のパーツで人工衛星にすることもできるのですが、追加のバッテリーや太陽電池がないので宇宙船の電力がすぐに尽きてしまったり、ロケットや宇宙船のコントロールが難しかったりするので、慎重に進めています。

間もなく大気圏に再突入。「マイカ2.5号」は宇宙センター東の洋上に着水しました。

わずかな時間ですが宇宙空間に到達したことで、大気圏内では得られなかったデータを実験装置から回収することができました。これを元にさらなる開発を進め、より強力なエンジン、より高度な制御装置、より長時間持つバッテリーなどを解禁し、あの空に輝くムンへの有人着陸を目指したいと思います。

次回は第一宇宙速度に到達してカービンを一周するところまで進められればいいな。

それでは!

松村 武宏

カレーと宇宙をこよなく愛するフリーライターであり2児の父。モバイル&天文/宇宙、二足のわらじで奮闘中。疲れた頭をSteamゲームで癒やす日々。 連載記事は、「<a href="https://sorae.info/">sorae 宇宙へのポータルサイト</a>」「<a href="https://kakakumag.com/">価格.comマガジン</a> 」に掲載中。

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