こんにちは。井上真花です。日々、ネットニュースやブログ、メールマガジンを見ていると、「これは!」と感銘を受けるテキストに出会うことがあります。この「PickUP!」は、私が見つけたとっておきのテキストを紹介するコーナー。著者に許可をもらったテキストを、順次紹介していこうと思います。第2回は、禅僧ティク・ナット・ハン師の著作を多数翻訳し、マインドフルネス瞑想のファシリテーターでもある島田啓介さんのブログから転載させていただきました。この時期、いろいろと悩んでいる方は多いかと思います。そんな方にぜひ読んでいただきたいテキストです。どうぞご覧ください。
今の状況は、確実に教科書に載るだろう歴史的出来事だ。子孫がどのように評価するか、それは今にかかっている。耐えていくこと、工夫すること、自滅しないで、できれば健やかに暮らすことが大切だ。そのようにしてこれから未来へ、肉体的、精神的な遺伝子を受け継いでいく。祖先もそうしてぼくたちにいのちを継いでくれたはずだ。
最近のニュースでは、緊急事態宣言が全国に広げられ、ニューヨークもイギリスもロックダウンを延長した。思ったより長期にわたる引きこもりが必要だという認識が、社会にも広がってきた。もうこの1~2週間が山場というような楽観的な予想はできない。気休め期は終わった。これからは生きることの本番である。
生きることはいつでも本番のはずだが、それを忘れて安穏とした日々を送ってきた。金さえあればどこでも行け、好きな人に会い、好きなことができた。いくらでも忙しくし、膨大な欲求を次々と満たすことができた。それらすべてが強制的にストップした。それは苦しいことだ。何とか抜け駆けしようとする人もいる。心情はわかる。ぼくだってそうしたいし、とくに若い人たちは大変だろう。
中学3年生の姪は、学校も部活も無くなり、家に閉じ込められて鬱的になっているらしい。無理もないが、いつまでうずくまっていても仕方がない。家族とともに自分自身を守らねばならないのだ。それには、今が歴史の転換点だという認識が必要だ。たんなる一過性の災害ではない。これは自らも含まれる人類に与えられた課題だと思って、個人的な苦境を解釈し直すこと、俯瞰し意味づけをし直すことが必要だ。15歳にもなれば理解はできるだろう。ぼくたちは、そうした今に一緒に取り組んでいるのだ。
小さな子には別の伝え方が必要だろう。息子は9歳だが、まだ遊びに夢中で、この周辺は自然の中でスペースがあるのがありがたい。家庭によって条件は異なるだろう。しかし大人にはしっかりした姿勢が必要だ。この事態にどう臨むのか? これから先どのように暮らしていこうとするのか? まだ早い、生活だけで手いっぱいという人もいるだろうが、どのような気持ちで過ごすかどうかで、ストレスも変わってくる。生活の不便は当分続きそうだし、ぼくたちはすでに point of no return に来ているのだ。
4月16日、平塚税務署に確定申告をぎりぎり駆け込みで提出し、車を運転しながら街を抜け、郊外の農業地帯を走って帰宅した。人通りは減り、のんびりした風景に見えるが、春の暖かな陽気の中で世界がすっかり変わってしまったことを知った。今年初めまでの「あの場所」に、もう二度と戻ることはないのだ。大げさではなく、人類史が変わろうとしている時代が今なのだから。
世界が変わったという事実には、ふたつの階層がある。まずどこも安全な場所はないということ。ウィルスという不可視の相手はどこに潜んでいるかわからないし、もしかすると私自身が「ジョーカー」かもしれない。自分が感染源かもしれないという想定で行動することが必要になってきた。映画のように非現実的な感じだが、感染予防のためにはきわめて現実的だ。
しかし深く見れば、戻れない絶望の向こうに新しい地平が見える。そもそもどんな世界に戻ろうというのか? 人類が大量消費と欲望の膨張の果てに手に入れようとしたものの幻想に比べれば、リアルな今のほうがよっぽど正気に思える。
季節は穀雨に入り、植物が勢いよく芽吹き始めている。ここ数日で20種類くらいの種まきを、畑とトレイに行った。今年は畑作業もしっかりやろうと思う。外向けの仕事が皆無になったので、なんとかインターネットでつながりと収入を得ようと工夫している。その切り替えのために一か月ほどとても忙しかった。
籠っていても、毎日講座や瞑想会や打ち合わせなど、人とのやり取りは続く。画面に張り付き続けて「オンライン疲れ」もある。だからなおさら畑や山歩きなどの外仕事が必要だ。状況は日々変わる。接触はしないが出会う人々はとても多い。外国からのアクセスもあるので、かえってやりとりは加速している。まだ1か月先も読めないが、1年は引きこもっても仕方がない覚悟でいる。
ここにいてできる最大限のことはしていきたい。翻訳にも着々と取り組んでいる。今でこそ読んでほしい本がある。こういう形で、本腰入れるとは思わなかったが、今が本番なのだ。
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