2009年7月発行のNature誌とScience誌に、長寿に関する論文が発表されました。Nature誌版はマウス、Science誌版はアカゲザルと実験対象は違いますが、いずれも「ラパマイシン」が関係しているそうです。
「ラパマイシン」とは、細胞内で成長ホルモンの情報を伝える「mTOR(エムトア)」という酵素の活動を抑制するための薬。これが人の成長に大きく関わっています。
人が成長するシステムですが、まず脳の一部から「成長ホルモン」が分泌されます。次に、成長ホルモンが発する「成長しなさい」というシグナルを、「インスリン様成長因子」(インスリン/IGF1)が身体中に伝達します。その後、「mTOR(エムトア)」という酵素が細胞内でこの情報を伝えるとのことです。
※詳しくは、この記事をご覧下さい。
その「mTOR(エムトア)」の活動を抑制するのが「ラパマイシン」、つまり人の成長を止めることで、寿命を延ばすという訳です。
まだ人間の治験は行われておりませんが、これを使えば人間の老化を止めることもできるかもしれないとのこと。古来から「不老不死」は人類の夢とされてきましたが、それがいよいよ科学の力で実現できるかもしれないというところまできているのかもしれません。
……と、ここでちょっと立ち止まって考えてみます。果たして「不老不死」は本当に人類の夢なのでしょうか。
もし、本当に「ラパマイシン」が不老不死の薬として認められ、誰でも処方してもらえるようになったとして、あなたはそれを希望しますか?
私は正直、よくわかりません。処方してもらっても後悔するかもしれませんし、処方を拒んでも後悔しそう。どっちを選んでも、もう一方を選んだ自分を思い描いて悩んでしまいそう。そうなると、むしろ寿命の長さまで選べるようになったことを疎ましく思ってしまうかもしれません。
「命の選択」ほど、人を悩ませることはありません。ラパマイシンが使えない今も、同じような悩みはあります。いわゆる「延命治療」問題。医者から「(患者の)延命治療を希望しますか?」と尋ねられた家族は、たいてい逡巡します。自分の判断が家族の命を左右するのですから、当然のことです。
ここで、一冊の本を紹介します。「選択の科学」(シーナ・アイエンガー)という本です。彼女の両親はインド人でシーク教徒。人生におけるほとんどの選択が宗教や慣習で決められています。一方、彼女が育ったのは自由を尊ぶ国、アメリカ。教育の過程で、彼女は「自分の意思で決めること」の重要さを学びます。
このように、「選択の自由」に関して両極端な経験をしたシーナは、大学で「選択」というテーマを研究します。果たして自分の意思で選択するのが幸せなのか、それとも選択せずに済むほうが幸せなのか?
もしこの問いに興味があるようでしたら、一度「選択の科学」を読んでみてください。そして、命の選択についても考えてみてください。いずれきっと、私たちが直面する課題になるはずですから。
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