ある朝、いつものようにNHKのニュース番組を見ていたら、三島由紀夫が出てきました。なんでも彼は、50年前の11月25日に命を絶ったとか。それで特集をしていたのですね。
私はあまり三島由紀夫に詳しくないので興味深く見ていたのですが、印象に残ったエピソードがあったので、ここで紹介したいと思います。
彼は1969年、東大全共闘と討論を行ったそうです。当時の東大全共闘は血気盛んで、なかでも機動隊と衝突した東大安田講堂事件は有名ですよね。三島由紀夫との討論会は、そのあと5月13日に開かれました。
企画したのは、当時全共闘だった木村修さん。三島由紀夫と全共闘は、言ってみれば保守と革新。思想的には相容れない相手に対し、半信半疑のまま討論を提案したわけです。しかし三島由紀夫は、この提案を聞いて「行きましょう」と快諾しました。
会場だった駒場キャンパス900番教室には、1000人を超える学生が集まりました。そこに現れた三島由紀夫は、学生が投げかけるさまざまな質問に対し、誠実に応えていったとのこと。そして最後に、次のように話したそうです。
「私は諸君の熱情は信じます。これだけは信じます。ほかのものは一切信じないとしても、これだけは信じるということはわかっていただきたい」(「美と共同体と東大闘争」三島由紀夫・東大全共闘より)
この言葉を聞いた木村さんは、「最後の『諸君の熱情は信じる』という言葉。右とか左とか表面上はあったとしても、『根底まで考えろ』ということだと思う」と感じたとのことでした。
この「表面上(の違い)はあったとしても、根底まで考えろ」という言葉、今の私の心にズシッと響きました。
新型コロナ対策やアメリカ大統領選挙のような大きな話題は、立場によって意見が食い違ってくるのは当たり前。とはいえ、SNSで激しく攻撃し合っている様子は、見ていてあまり楽しいものではありません。
だからといって「相手の立場を考えろ」とか「立場を越えてフラットに考えてみれば」といって片付ければいいというものではない。たぶん、三島由紀夫がやろうとしていたのは、そういう「きれいごと」ではなかったのだろうと想像します。
「きっと、彼には彼の真実がある。そこを疑うことなく話を聞いてみよう。そして自分の意見も伝えてみよう。諦めず、とことんまで議論を尽くせば、お互いそれまで見えていなかったものが見えてくるのではないか」
私の想像に過ぎませんが、きっとそんな感じだったのではないでしょうか。そう考えると、ちょっと三島由紀夫がカッコよく見えてくる。彼の著作、少し読んでみようかな。
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