昨年4月、在宅ワークをしているお父さん、お母さんのお話を聞きたくて、中山さんと壽さんを招いて座談会を開催しました。
壽さんは、早くからテレワークを実践している会社「シックス・アパート」の広報で、「リモートワーク大全」という書籍の著者。プライベートでは小学生のお子さんを育てるお母さんでもあります。中山さんは「トレタ」で仕事をしていますが、2000年から「エアロプレイン」というブログを運営しています。プライベートでは6才のお子さんを育てているお父さんでもあります。
昨年の緊急事態宣言時は学校も休校になっていたので、今とはかなり状況が違いました。とはいえ、テレワークを行う上での課題はあまり変わっていません。そこで、2度目の緊急事態が始まった今、改めて記事にまとめてみることにしました。
井上 壽さんは2016年からテレワークを始めているので、今のような状況になっても、あまり変わりはないですか?
壽さん たしかに、シックス・アパートでは以前から全社員テレワークを実践しているので、そういった意味では大きな苦労はありませんでした。とはいえ、以前は「テレワークしてもいいし、会社にきてもいいよ」という形だったので、誰かと話したいときや他社との会議など必要な時には頻繁に出社していました。今はそれもできないので、やっぱり少し状況は違っていますね。
中山さん ぼくは(2020年)2月にトレタへと転職したばかりで、すぐにテレワーク体制になったこともあり、いろいろ苦労がありました。まず、他の社員のことをほとんど知らない。だから、わからないことがあっても誰に聞いたらいいかがわからない。
井上 それは大変。どうやって課題を解決したんですか?
中山さん 仕事用のチャットで上司とのマンツーマン部屋を作り「これは誰に聞けばいいですか?」と逐一聞くようにしたんです。ぼくはずうずうしいからそういうことも積極的にやっていけるけど、遠慮してしまう人だと難しいでしょうね。もちろん会社も状況に応じたフォローはしてくれますが、やはり打開していく個の力は必要な気がします。
壽さん 昨年や今年の新入社員は大変だと思いますよ。中山さんはベテランでスキルがあるから、そういう工夫もできるけど、そうでなければなかなかうまくやっていけないと思います。中には自宅が狭いために仕事場所の確保が大変だったり、そもそもネット回線を引いていなかったりする人もいるわけです。会社側は、その人たちがテレワークできるような環境作りを支援していかなければいけないわけですから。
中山さん そうそう。知人の会社でも同じ問題が起きていて、新入社員との顔合わせもないままスタートしてしまっているので、彼らのスキルも知らないから仕事が振れないんだそう。そんなの、実際に会えば1日で終わることなんだけど、オンラインだと難しいんですよね。
壽さん そう、テレワーク下ではコミュニケーションにも工夫が必要ですよね。例えば、チャットでメッセージを伝える場合、数行のメッセージで正しく意図を伝えなければならない。そのためには、主語述語をちゃんと入れて正しい文章にしなければならないし、1チャットで1トピックだけ語るということも意識していかなければならない。目の前にいれば上手におしゃべりできる人も、チャットになると途端にうまく伝えられなくなるということもあります。きっと、おしゃべりのコミュニケーションとは違うスキルが求められるのでしょうね。
井上 かなり高いコミュニケーション能力が求められているんですね。そういうのって、その人の適性によるんでしょうか。
中山さん いや、適性というより経験値じゃないかな。ぼくは以前、よく取材をしていたんですが、その経験は活きていて、そこで聴く力を養うことができました。もちろん、聞いた後は記事にしなければならないので、言語化する力もつきましたね。それがずいぶん生きている気がします。テレワークする上で、相手がなにを伝えたいのかということをしっかり聞き取る力と、それを言語化する力は必須ですから、しっかり鍛えておいたほうがいい。
壽さん テレワークに関しては、人もそうだけど、会社にも向き不向きがありますよね。(2020年3月の)緊急事態宣言では、現地に行かないと成り立たない職種や業態による制限だけでなく、オフィスワークであってもテレワークに課題を感じた会社も多かったのではと思います。当時は、準備時間もなかったですしね。シックス・アパートの場合、もともとエンジニアはGitHub、経理はマネーフォワードなどクラウドツールを使ってログを残しながら仕事をするのが当たり前だったから特に困ったことは起きていませんが、日頃からそういうツールを使っていない会社は切り替えに時間がかかると思います。
中山さん トレタの前はクライアントワークが多く、期限を決めて短期的に回す仕事が主だったんですが、それだとテレワークはキツかっただろうな、切迫感が違うだろうなと思います。たとえば、クライアントが決めた期限が迫ってくると、なんとしてもそれまで仕上げなければならない。当然チームで仕事を進めていくわけだから、コミュニケーションも密になっていくわけですが、テレワークだとどうしてもタイムラグが生じてしまう。今の仕事はクライアントワークではないこともあって、もう少し余裕をもって進められるので、テレワークになって追い詰められたという感覚はありませんでした。
壽さん テレワークでは、社員の評価という面でも課題があるとよく聞きます。テレワークだと仕事をしている姿勢は見えないので、成果で評価を測るしかないと思われがちです。ですが、そうすると長期的に取り組んで結果を出すタイプの仕事を評価をするのは難しい。先ほど言ったようなクラウドツールの活用や、こまめな状況のアップデートでプロセスもきちんと共有していくことで、プロセスも含めた評価をしていくことが大事だと思います。これからは、そういった点でも会社が変わっていかなければならなくなるのでしょうね。
井上 テレワークだと職場が会社から自宅に変わりますが、そこでなにか困ったことはありませんでしたか?
中山さん あります。うちは夫婦共働きで、まだ子どもが小さいから、家族が一緒にいる部屋で仕事をしていて、テレカンするときだけ別の部屋に移動することになっている(2020年の緊急事態宣言では保育園が登園自粛となった)。でも、子供は僕のことをおいかけて、テレカン中3回に2回は部屋に入ってきてしまうんです。だから、会議に参加する人の共通認識として「それはしょうがない」と思ってもらうことにしました。
井上 それは社内での会議の場合ですよね。
中山さん いや、社外の方を交えた会議でも同じですよ。家庭環境はみんな違うし、会社の会議室のようにはいかない。そのことを受け入れていかなければ仕事はやっていけない時代になったんだと思います。
井上 なるほど。これまでの仕事のやり方ではうまくいかないから、もうすっかり違ってきているんだよという認識を会社の枠を超えて持っていなければならないと。
中山さん はい。僕も含めて社員の中には「子どもが小さいから昼間は仕事が思うようにできない」という人もいるので、「そういう人は早朝か夜に仕事をしてもいい」ということにして、実際にそれでうまくいくかどうか試してみたりして(スライドワーク制度 )。もちろん、一人だけ夜中に仕事をするとレスポンスが遅くなるので、チーム作業は難しくなりますよ。でも、実験的にやってみるしかない。そして、試してみてうまくいった場合は「こういう方法もあるよ」とほかの人にシェアしていく。そういうことを繰り返しながら、うまい方法を見つけていく。それしかないでしょうね。
井上 社会全体で実験を繰り返しているようなものですね。とはいえ、人の命を守るための対策なのだから、やっていかなければならない。なんとかうまい方法を見つけていきたいですね。本日はありがとうございました!
コメント