2020年10月1日、東証の株式売買システムで障害が起き、終日売買停止になりました。
このとき何が起きたのかを、簡単に説明します。東証の株式売買システムはミッションクリティカルなシステムで、障害時には待機系のシステムに切り替えて業務を継続させる仕掛けでした。しかしこのときはうまく切り替えられず、売買を停止したとのことです。詳細については東証のプレスリリースをご確認ください。
障害発生から半日後、東証は記者会見を開き、記者から矢継ぎ早に浴びせられる質問に対して的確に受け答えをしていました。また「市場運営の責任は東証にある」として「損害賠償は現時点で考えていない」とコメントしています。
この記者会見を見たとき、僕はとても衝撃を受けました。通常、システム障害が起きたときの最初の記者会見では「運用上の課題があった」や「原因はこれから調べていく」というようなコメントが多く、責任の所在をはっきりさせないケースが多い印象だったからです。
東証の記者会見で発言していた横山隆介常務執行役のインタビュー記事が文春オンラインに掲載されていますが、この記事の中で特に印象的だったのが、下記のコメントでした。
「ベンダー任せにしない」という基本方針があるんです。つまり、システムの製造元であるベンダーさんのシステムの企画、要件定義、開発、運用という一連のプロセス全体に、システムのユーザー企業である我々自身が主体的に関わらなければならないと。
文春オンライン「東証システム障害で話題に 横山隆介CIOが語る「ベンダー任せにしない」理由」より
この記事を読み、僕は「これがDXに必要な基本姿勢だ」と感じました。
最近、DXという言葉がバズワード的に捉えられ「デジタルツールの導入=DX」のような文脈で語られているケースを散見します。しかし僕は、自社の実態を把握しないままデジタルツールを導入したところで、革新的な効果を得ることはできないと考えています。
たとえば、ある目的を達成するためにシステムを構築したケースを考えてみましょう。この場合、開発当初はシステムの必要性や方向性を理解しているため、比較的スムーズに導入が進みます。
しかし、長年システムを使い続けているなかで、当初は関係者一同が理解していたはずの必要性や方向性が薄まっていき、利用者から「業務効率化のためだけに存在するツール」として認識されるようになります。そうすると、間違った運用によってシステム自体に負担がかかり、不具合が出るリスクが高まります。
このとき、ベンダーがシステム更改の必要性を感じて開発者に相談しても、開発者との意識に「ずれ」があるため、コストや必要な機能などがなかなか折り合いません。その結果、せっかく作ったシステムで障害が起きてしまうことは少なくありません。
これは、システムが単なるコストセンターとして認識されてしまったために引き起こされた悲劇です。こういった経緯でシステム障害が発生した場合、ユーザー企業は原因や対処法が分からないため、結果としてベンダーに責任を押しつけてしまうのです。これは、ベンダー任せの弊害といってもいいかもしれません。
こういった事態を引き起こさないためには、東証の例のように、ユーザー企業が自らシステムの企画、要件定義、開発、運用などプロセス全体に主体的に関わっていくことが求められます。そうすれば、障害が起きたときに、比較的早期に対応することができるからです。
僕は、「ベンダー任せにしない」という基本方針がDXに欠かせない要素と考えています。「DX化を進めたいからシステムを導入する」、「DX化のために人材をいれる」というように、人任せで進めようという考えでは、DXの実現は難しいでしょう。
東証の横山氏はエンジニア出身ではありませんが、システムに対して主体的に関わっているように感じます。このような人材を社内で以下に増やしていけるのかがDXを実現するためのポイントなのかもしれません。
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