いま注目される音声メディア
音声メディアが注目されています。
ブログやSNS、YouTubeなどの動画から、TikTokのようなショート動画、次に来るのは音声メディアではないか。そんな期待をこめて取り上げられることも増え、実際に新たなビジネスも生まれてきています。
では、なぜ今、音声メディアなのでしょうか?
個人でも音声配信がしやすくなったのは、2004年にポッドキャストという技術が登場してからでした。それまでも方法はありましたが、設備やシステムを用意するにはハードルがありました。
ポッドキャストというものは、どこかの企業によって作られた仕組みではありません。また、新しい技術が発明されたわけではなく、古い技術の組み合わせに過ぎず、いち個人が協力者を見つけながら作り上げた仕組みだったのです。
ポッドキャストは、アップル社によってiTunesに組み込まれるようになり、盛り上がりを見せましたが、すぐに動画の時代が到来し、徐々に話題になることは少なくなっていきました。
そんな音声メディアが、なぜ今、また注目をされるようになったのでしょうか?
ポッドキャストはどうして再燃したのか
欧米では2014年頃に音声メディアが再注目され始めました。
アメリカではSerialというポッドキャスト番組がヒットしたことをきっかけに、企業が音声メディアを再評価。イギリスでは公共放送のBBCが動画配信やポッドキャストなどクロスメディア展開に力を入れ、ポッドキャストの人気を牽引しました。北欧では若手議員などが積極的にSNSとポッドキャストを利用し、メディアとしての地位を高めてきました。
このように、国によって直接的な要因はバラバラですが、同じ時期に音声メディアとしてのポッドキャストが再注目され始めたのは偶然ではありません。
ポッドキャストが誕生した2004年は、まだスマートフォンもない時代。名前が表すように、音楽プレイヤーの「iPod(アイポッド)」で聴くものでした。インターネット接続もないiPodで定期的に音声コンテンツを聴くことができるという、いわば擬似的に放送を模した仕組みは、とても画期的でした。
翌年、Appleが正式にポッドキャストを採用したときには盛り上がりましたが、その後、徐々に失速していきます。失速の要因はいくつかありますが、再び注目を集めることになった理由のひとつとして、「スマートフォン」と「SNS」がインフラとして普及したことが挙げられます。
iPhoneが世の中に登場したのが2007年。これが大ヒットしたおかげでスマートフォンというジャンルに各社が乗り出し、いわゆる「ガラケー」を出荷台数で抜いたのが2011年。
Facebookがサイトのアクセス数でGoogleを抜いて話題になったのが2010年。2011年には世界中で8億人のユーザーを持つ世界最大のSNSとなりました。
2011年は「iPhone 4S」が発売され、前年比で2倍近くまで販売台数を伸ばす飛躍的な年でした。遅ればせながら、Apple Podcastsのアプリがリリースされたのは翌年の2012年。もう少し早くリリースして欲しいところでしたが、もともとはiPodの販売促進になればと対応したポッドキャスト。皮肉にも、そこに力を入れなくてもiPhoneが十分に売れたことで、ポッドキャストの再燃を遅らせた原因にもなってしまいました。
とはいえ、2011年から2012年にかけて、スマートフォンとSNSという環境が整ってきた感じがあり、これがポッドキャスト再燃の下地になったことは間違いありません。これまで、パソコンに接続して同期するという作業が必要だったのが、スマートフォンだけで完結するようになったのです。
上記のグラフにもあるように、米国では2014年に「Sirial」という番組がヒットしたのがきっかけとなり、ポッドキャストが盛り上がりました。その番組が注目されたきっかけを作ったのは、Twitterでした。
「Sirial」は、実際に起こった犯罪が冤罪かどうかを調査するトゥルー・クライムというジャンルで、全12回で構成されていました。あたかもテレビドラマのように、後半に向かって盛り上げたところで「続きは次回に」と気になる終わり方をする「クリフハンガー」と呼ばれる手法を用いてリスナーの興味を惹きつけていました。
ここで、意図はしていなかったのですが、クリスマスの時期に1週休んだところ、「どうして今週は更新されないのか」というリスナーの不満がTwitter上で溢れ、それが番組の大きく知名度を上げたきっかけとなったのでした。
音声コンテンツは、検索されにくく広めにくいコンテンツですが、スマートフォンだけで完結するという利便さとともに、リスナーと交流を持つことができて口コミが広がりやすいSNSが普及したことが功を奏し、飛躍的に広がっていったといえます。北欧で国会議員が利用した例も、ポッドキャストとSNSの親和性が注目のポイントでした。
こうして欧米では2014年頃から再燃し始めたポッドキャストが、日本ではなかなか見向きもされない状況が続き、7年後の2021年にようやく企業が再びポッドキャストに注目し始めました。次回は、なぜ日本ではこんなに動きが遅かったのかという理由について考察します。
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