【週刊ポッドキャスト生活】#02 音声メディア後進国の日本

レビュー

前回振り返ったように、欧米では2014年頃から再注目され始めたポッドキャスト。「スマートフォン」と「SNS」の普及という下地ができたことで環境が整い、国によって引き金は異なりますが、再び同時期に各国でポッドキャストが盛り上がっていきました。

2004年の段階では、ポッドキャストの登場は早すぎたのかもしれません。インターネット接続ができるモバイル端末を誰もが持つ時代になって、音声メディアの活きる時代になってきたともいえます。

ところが、日本は世界の動きから取り残されました。ようやく盛り上がりを実感できるようになったのは、7年もの歳月が経った2021年頃から。日本はスマートフォンの普及率も低くはなく、インターネット回線も悪いわけではありません。なぜ日本はこれほど遅れてしまったのでしょうか?

オーディオブックも遅れている日本

アメリカではオーディオブックも人気です。その理由としてよく耳にするのは、アメリカは車での移動が多く、車の中でオーディオブックを聴く人が多いからというもの。ポッドキャストもこれと同じ理由で普及したと考えられています。

たしかに、アメリカ人は平均で1日1時間ほど車内で過ごすというデータもあり、要因の1つであることは間違いありません。しかし、本当にそれだけの理由で、これほど日本と差がつくものでしょうか。

アメリカでのポッドキャストが主に車の中で聴かれているかといえば、そうでもありません。アメリカ在住のリスナーに聞くと、もちろん車でも聴きますが、散歩やジョギング、家事をする時間、寝る前のひとときなど、あらゆる時間や場所で聴いていると言います。車社会だけが理由とは思えません。

興味深いのは、アメリカでオーディオブックが急激に成長したのは2011年以降であるということ。ポッドキャストと同様、スマートフォンの普及が影響していそうです。また、アメリカがテクノロジーに対して積極的で、大手のAmazonがAudibleでオーディオブックを積極的に展開してきた影響も大きいでしょう。

遅ればせながら、日本でもオーディオブックは利用者を伸ばしています。株式会社オトバンクが提供するaudiobook.jp では、2018年から会員数が6倍以上と急成長をしています。

audiobook.jp プレスリリースより転載

オーディオブックとポッドキャストがアメリカより7年ほどの遅れをとっているのは、なにか特別な理由があるのではないでしょうか。私には「音声メディア」全般に同じ要因があるように見えます。

かつて、欧米のサービスが2年遅れで日本に入ってくるという話もありました。インターネットが普及した現在、逆に7年もの遅れをとったのは、やはり日本人は「聴く」という音声メディアが向いていないということではないでしょうか? ポッドキャスト登場時には、自己主張が苦手で、話すことが得意じゃない日本人には向いていないという話もありました。

しかし、この1年の注目ぶりを見ると、本当にそうと言い切れるのか疑問です。2021年の初頭に話題になった音声SNS「Clubhouse(クラブハウス)」では、連日、夜遅くまで話し込む人が多くいました。決して日本人は話すことが嫌いというわけでもなさそうです。

日本が7年も遅れた理由

みなさん、ラジオ端末を最後に見たのはいつですか。防災グッズとしてではなく、家電量販店でラジオが売られているのを見覚えがあるでしょうか?

日本に比べると、欧米では未だラジオが聴かれています。ヨーロッパで家電量販店にラジオが置いていないとクレームが出ると言います。

ここで、2016年に総務省が発表した「ラジオの聴取に関する補足資料」を見てみましょう。

総務省の「ラジオの聴取に関する補足資料」より転載(https://www.soumu.go.jp/main_content/000401151.pdf

日本や韓国では、1日あたりのラジオ聴取時間がかなり低いことがわかります。また、ラジオが人気と言われるアメリカより、ヨーロッパの方がラジオが聴かれていることも分かります。

そもそも日本は音声メディアを聴くという習慣が(欧米より)低く、反対に欧米は聴く文化が(日本より)根付いていると言えます。インターネットでラジオを聴くことができるようになったのも日本より早く、そこにスマートフォンやSNSが普及したことで、ポッドキャストやオーディオブックというコンテンツが馴染みやすかったのではないでしょうか?

次に、2016年ロイター通信の発表したデータから、ニュースへの初期接触媒体の国別の比較を見てみましょう。他の国に比べて、日本ではテレビの割合が高く、ラジオが極端に低いのが分かります。また、メディアへの信頼度を調べても、テレビや新聞よりもラジオの方が高いという国もあり、日本でのラジオへの親しみや信頼感よりも高いようです。

ロイター通信「Reuters Digital News Report 2016」より転載

これは、日本のラジオ局の努力不足だったのか、というとそうとも限りません。テレビが登場するタイミングが良かったという時代背景があります。

ラジオの玉音放送で第二次世界大戦の修正を知った人が多かったというように、終戦の1945年頃はラジオが重要なメディアでした。その後、日本は焼け野原から復興していきます。1950年代後半には、白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫が「三種の神器」と呼ばれ、高度成長期に入る1960年代には、カラーテレビ (Color television)・クーラー (Cooler)・自動車 (Car) の3Cが「新・三種の神器」などと言われ、日本が敗戦後の復興と先進国へ近づいていく象徴として「テレビ」があったのです。

欧米に比べて土地も狭く、また同じ言語を話す単一民族国家ということもテレビの普及には有利でした。テレビの電波が国中に網羅し、国民が同じ言語で同じ番組を体験できるというのは、じつは当たり前のことではありません。

このように、他国に比べてテレビの普及が進んだことが、ラジオなどの音声メディアにとっては不利になった理由と考えることもできます。つまり、日本は映像などの「観る文化」が強いのです。YouTubeが人気なのも納得できるのではないでしょうか?

次回は、このように「聴く文化」が育っていなかった日本に、ようやく音声メディアが注目されるようになった理由を紹介したいと思います。

【チームマイカ】佐藤新一(ポトフ) 

【チームマイカ】佐藤新一(ポトフ) 

佐藤 新一 2005年から配信する古参ポッドキャスター 。
Whizzo Production(http://whizzo.jp/)代表。広告代理店の営業や企画制作会社のWEBディレクターを経て独立。WEB制作・ポッドキャスト制作やライター業などを行う。 座右の銘は「常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクション」。

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