【週刊ポッドキャスト生活】#04 Clubhouse狂想曲

月刊ポッドキャスト生活

前回までは、欧米で再びポッドキャストに注目が集まり、企業の参入が増えていく中、日本では逆行してポッドキャストが衰退していく暗黒期について解説しました。当時、私は海外のニュースを追いかけていて、「日本でも再びポッドキャストが盛り上がってくるのではないか」と期待していたのですが、それとは裏腹に、一向に盛り上がる気配は見受けられませんでした。

最初にポッドキャストが日本で盛り上がったのは、欧米から1年遅れでした。ところが2回目のブームは、なんと7年遅れ。この情報社会でここまでのタイムラグが生まれてしまった理由として、前回紹介したトラウマが予想以上に大きな傷跡を残したことが考えられます。

独立系サービスの登場も停滞する音声業界

日本では盛り上がる気配がない中、欧米では次々にポッドキャスト関連のサービスがリリースされました。現在、ポッドキャスト普及の重要な立役者になっているサービス「Anchor(アンカー)」も、2015年にサービスを開始しています。

この海外の動向を見据え、日本では「独立系」と呼ばれるポッドキャストではない単独サービスとしての音声配信サービスが登場しました。いずれ日本でも音声メディアのブームが来ると見越してのリリースです。主なサービスは次の表をご覧ください(日本でのサービス開始時期を記載しています)。

これらのサービスは「独立系」とも呼ばれる音声配信サービスで、特定のアプリ内で聴くことができます(後にポッドキャスト形式でも配信する機能を備えたものもあります)。

ポッドキャストは、ブログの更新情報などを通知する「RSS」という技術を使ったオープンな仕組みを採用しています。そのため、仕様に沿って音声データを作ればどんなサービスからでも配信できるし、どんなサービスでも受信できる。そのオープンさが特徴でもあります。

インターネット上に公開されているウェブサイトは、「http」という決まり事(プロトコル)で作られているため、どんな種類のウェブブラウザでも閲覧できますが、ポッドキャストもこれに似ています。新しいブラウザが登場しても「http」のルールに則っていれば表示できるのです。

一方、独立系はLINEのタイムラインみたいなものなので、LINEアプリ内じゃないと投稿を見ることができません(2016年11月からタイムラインのウェブブラウザ版が出ていますが、特定のサイトからしか見られないので、その辺りも独立系のサービスに近いかもしれません)。

オープンなポッドキャストとクローズドな独立系サービス、それぞれにメリットとデメリットがありますが、とにかく海外の動向なども受けて、このような音声配信サービスが登場したのは、大きな動きでありました。

こうしたサービスはそれなりに話題となり、注目もされました。しかし、海外のポッドキャストなどの動向や人気ぶりに比べるとそれほどでもなく、企業がどんどん参入してくるような状況にはなりませんでした。

こんなじれったい状況が何年も続き、「もしかしたら、本当に日本ではポッドキャストのような音声配信は国民性と合わず、盛り上がることなど永遠に来ないのではないか」と思ってしまうほどでした。

風穴を開けたのはダークホースのClubhouse

海外でどんどん高まるポッドキャスト人気とは裏腹に、なかなか日本国内では話題に出ることがないポッドキャスト。独立系の音声配信サービスが出始めて、そろそろ日本でも再注目がされるのではないかと思っていたら、突如、音声コンテンツに注目が集まるサービスが登場しました。音声SNSの「Clubhouse(クラブハウス)」です。

サービス自体は2020年4月に米国で開始されましたが、5000人限定のサービスで一部の人しか使えないというものでした。その後、招待枠が配布されて徐々にユーザーを増やしていきますが、日本国内でも突如、2021年1月に話題となりました。芸能人などでいち早く利用する人が注目され、テレビなどのメディアでも取り上げられて大きな話題となります。

当時のClubhouseは、他のSNSとは違ってテキストでのやり取りができず、音声のみで交流していました。ホストが開いたトークルームでスピーカーと一緒に音声でおしゃべりをするというサービスで、リスナーとして聞くだけの参加もできます。音声での会話は一切録音されず、参加者が口外することをルールとして禁じていました。

このルールが功を奏し、著名人のここだけの会話を聴いたり、スピーカーとして参加して会話を楽しんだりすることができると話題になりました。アーカイブが残らないから聴き逃したくないという心理も働き、長時間利用するユーザーも多かった印象です。

これまでポッドキャストや音声配信サービスは、新しい動きがあってもなかなか注目されませんでした。しかしClubhouseの登場をきっかけに音声SNSという新しいサービスが話題になり、メディアで取り上げられるようになったのです。スピーカーとして話した人が音声コンテンツの魅力を知って楽しむようになり、突如として音声メディアが注目され始めました。

私はポッドキャストが正攻法の音声配信として注目されると思っていましたが、意外にも音声SNSがきっかけとなり、日本でポッドキャストなどの音声配信が再評価されるようになったのです。このあと、音声コンテンツの魅力、音声メディアの可能性などがメディアでも取り上げられるようになりました。

次回は、現在のClubhouseの状況と、なぜこのときClubhouseがブームといえるほど注目を集めたのかについて解説します。

【チームマイカ】佐藤新一(ポトフ) 

【チームマイカ】佐藤新一(ポトフ) 

佐藤 新一 2005年から配信する古参ポッドキャスター 。
Whizzo Production(http://whizzo.jp/)代表。広告代理店の営業や企画制作会社のWEBディレクターを経て独立。WEB制作・ポッドキャスト制作やライター業などを行う。 座右の銘は「常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクション」。

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