【週刊ポッドキャスト生活】#10  ポッドキャストの再生回数での報酬は可能?

月刊ポッドキャスト生活

ポッドキャストの再生回数に応じて報酬が発生する仕組みを望む声があります。「いつになったらできるのでしょう」と聞かれることがあります。YouTubeの報酬の仕組みを意識してのことでしょう。1再生0.1円などの報酬をイメージしているのだと思います。

ポッドキャストの場合、これはとても難しく、実現は期待できません。

YouTubeは基本、ダウンロードではなくストリーミング再生であるため、再生回数を正確にカウントできます。しかしポッドキャストは、本来ダウンロード再生が前提です。端末にダウンロードされたコンテンツは、再生回数のカウントが困難です。

音声版のYouTube

YouTubeのように、再生回数に応じて報酬が発生する仕組みを実現するには、音声をダウンロードさせないようにする必要があります。せめてアプリ内にダウンロードし、再生したら信号を送るなどの仕組みがなければ、再生回数はカウントできません。

どんなアプリでも聴ける汎用的なポッドキャストではなく、独立系の音声配信サービスであれば、実現できるかもしれません。実際にstand.fmがこの方法をとっています。

→ stand.fmパートナープログラム (SPP) とは

様々なアプリに配信されるポッドキャストに、この仕組みが導入されることは望めないでしょう。もし特定のアプリでこの仕組みが導入されて、広告などが挿入されるようになれば、リスナーは広告が入らないプラットフォームで聴くようになることが想像できます。Spotifyオリジナルのように、特定のアプリでしか視聴できないコンテンツであれば可能ですが、その場合、ポッドキャストではなく独立系のサービスと同じ仕組みになります。

stand.fmは巨額の出資があったので、現在は広告などが挿入されることなく、パートナーになれば再生数に応じて報酬を得ることができます。今はユーザーを増やすことに注力しているようで、この仕組みは今後変わってくると思われますが、現段階はYouTubeに一番近い音声配信サービスです。有料サブスクリプションや投げ銭の機能もありますので、YouTubeをイメージした音声配信したいのであれば、stand.fmが一番近いでしょう。

ポッドキャストの配信サービスで、自動広告や再生数に応じた報酬が導入されることは難しいと思いますが、もし実現するとしたらどういう方法があるでしょうか。以前に#7で紹介した「ポッドキャスト広告ネットワーク」は、ひとつの解決方法です。配信サービスとプラットフォームの間に広告を挿入する仕組みを挟み込むことで、配信者に対する報酬を実現しています。現在は個人では参加できませんが、ラジオ局やメディアなどのポッドキャストで実施されています。

音声広告のオトナル、日本最大規模のポッドキャストの音声アドネットワークを提供開始

個人でも参加できるようになるかどうかは分かりませんが、できるようになるとしても、しばらく先になると思われます。すぐに報酬の仕組みを利用したいのであれば、stand.fmで配信することをお勧めします。そしてリスナーの獲得や再生数を増やし、いち早くパートナープログラム (SPP) に申請する条件を目指すべきでしょう。

広告からコンテンツへ

YouTubeの成功によって、再生数に応じて報酬がもらえる仕組みがスタンダードだと思われがちですが、他のサービスではほとんど見られません。TikTokやInstagramで活躍するTikTokerやInstagramerでさえも、再生数や表示数に応じて報酬が貰えるわけじゃありません。YouTubeの例は特殊なマネタイズと理解した方が良いでしょう。

#7で紹介した通り、ポッドキャストではスポンサー契約が一番多いと言われています。また、広告の方法もポッドキャストのパーソナリティーが口頭で読み上げるものが多く、広告素材を流すものに比べて効果も高いようです。

しかし、この「広告モデル」がいつまで続くのか疑問視されています。

アメリカでポッドキャスト再燃のきっかけを作った番組「Siriel」ではMailChimpというメール配信サービスがスポンサーとなり、番組の冒頭に19秒の広告が挿入されていました(現在では広告がないものに差し変わっています)。これは、自動挿入の広告ではなく、手動で編集時に追加された広告でした。

MailChimpというサービスの認知度向上を目的とした広告は、非常に多くの者に聴かれました。調査会社によると、Twitter上で2,488件のツイートがSerialとMailChimpを一緒に言及しているとのことで、一定の効果があったのではないかと見られています。

MailChimpは2014年時点で、複数のポッドキャスト番組のスポンサーになっていました。しかしその後、徐々にスポンサー提供を減らしていきます。ポッドキャストに広告効果がなかったという判断だったわけではありません。広告提供を減らしていき、その代わりに自社でオリジナルの動画やポッドキャストを視聴できるサイトを作成し、コンテンツ制作チームやプロダクションを作ってしまったのです。つまり、ポッドキャストに広告を出稿するのではなく、ポッドキャストのコンテンツ自体を作ってしまうようになったのです。

「オウンドメディア」という言葉は聞いたことがあるでしょうか?プロモーションの世界では、こちらから押し付ける広告ではなく、より良いコンテンツを作成して顧客から見つけてもらう方が有効だと言われています。自社でコンテンツを発信するメディアを持つことを「オウンドメディア」と言い、広告を出稿するよりも自社メディアへの投資を増やしていく傾向にあります。

MailChimpも広告としてリスナーの邪魔をするのではなく、自社ブランドの理念・メッセージに沿ったコンテンツを作成し、共感を得ることで見つけてもらうことでブランド・イメージも向上させようという狙いです。

YouTubeなどの再生回数による報酬などは、広告出稿の費用が元になっています。しかし、今後は企業からの広告出稿が増えるかは分かりません。ポッドキャストだけではないですが、企業のプロモーション方法も変わってくると思われます。

今後、広告挿入や再生回数による報酬ではなく、人気のポッドキャストと共同でコンテンツを作ったり、コラボレーションをしたりといったモデルがもっと増えるのではないでしょうか?

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

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