さまざまなアプリで聴くことができるポッドキャストと、特定のアプリでしか聴くことができない独立系音声配信サービス。いずれも一長一短があるということをこれまでの記事で紹介しましたが、ポッドキャストでもSpotifyやAmazon Musicなど特定のプラットフォームでしか聴けない独占配信の番組が増えています。Apple Podcastsでも有料サブスクリプションなどを使えば、誰でも独占配信を作成することができます。
これらの独占配信は、NetflixやDisney+などの動画配信サービスの戦略を参考に展開しているようです。番組によってアプリを変える必要が出てくるため、ユーザーにとっては悩ましいところですが、今後も増えていきそうです。
そんなSpotifyの独占配信番組で今週、あるニュースが物議を醸していました。
人気ポッドキャスト番組への抗議でSpotifyから楽曲を削除
楽曲の削除を要請したのは、カナダ出身のミュージシャンであるニール・ヤング。1995年にはロックの殿堂入りも果たしている大御所です。世界で最も人気あるポッドキャストであるジョー・ローガンがホストを務めるSpotify独占番組の『Joe Rogan Experience』に対して抗議するというのが、削除の理由でした。
ニール・ヤングは、次のように主張しました。「ジョー・ローガンはポッドキャスト配信の中でワクチンについての虚偽の情報を拡散し、それを信じた人たちを死なせている可能性がある」。これに抗議するため、Spotifyに対して「ローガンを取るか、ヤングを取るか。二つに一つだ」と迫ったといいます。
ロックの大御所ニール・ヤング、Spotifyに自身の楽曲の削除を要求。ワクチン誤報ポッドキャストに立腹
Spotifyはニール・ヤングの要請通りに楽曲を削除したようで、現在Spotifyの中でニール・ヤングのオリジナルアルバムは聴けなくなっています。
ジョー・ローガンのポッドキャスト『Joe Rogan Experience』は、さまざまな方をゲストに迎えてトークを行うインタビュー番組。『Joe Rogan Experience』に対し、Spotifyは2020年に1億ドルを超えると言われる巨額の契約金を支払って独占契約しました。現在は、平均で1,100万人のリスナーを抱えるといいます。
ジョー・ローガンはコメディアンの肩書きもあり、インタビューで面白おかしくけしかけることもあるため、これまでもたびたび物議を醸すことがありました。過去にテスラのCEOイーロン・マスクがポッドキャスト番組の収録中に大麻を吸って話題となったのも、この番組での出来事です。
ニール・ヤングが抗議した回では、自称ウイルス学者のロバート・マローン博士を番組に招き、博士の新型コロナは「集団催眠的な精神病」、人々にワクチンが効果的だと信じ込ませたという主張を配信して、そのエピソードがSpotifyで数万回も共有されたとのこと。
番組の影響力を懸念して、科学および医学界の研究者ら270人が連名で「あまりに不快なだけでなく、医学的および文化的に危険だ」「Spotifyは社会的に有害な虚偽の主張を配信することで、その主張が科学研究に対する国民の信頼を傷つけ、医療専門家によって提供されるデータ主導のガイダンスの信頼性に疑問を投げかけている」とジョー・ローガンを批判する公開書簡を送っているようです。ニール・ヤングも同様の懸念からの行動ということでしょう。
プラットフォームはどこまで責任を取るか
日本に住んでいると、ここまで社会に影響を与え、物議を醸すポッドキャストというのがイメージできないかもしれません。米国ではそれほどポッドキャストが認知され、一般的なものになっています。
今回、ニール・ヤングは、番組のホストであるジョー・ローガンと共に、プラットフォームであるSpotifyに対して抗議するという意味を込めて、楽曲の削除を要請しました。番組の内容に関してプラットフォームにも責任があるという見解になります。
SpotifyのCEO、ダニエル・エクは以前に「ポッドキャストの個別の内容にまでは責任を負っていない」と発言しています。たしかに、責任を負うことは難しいのではないかとも感じますし、配信者側から見ても、検閲のようなことをされるのは望ましくないでしょう。
それでも新型コロナがパンデミックになって以来、Spotifyは新型コロナ関連のポッドキャストエピソードのうち問題があるものを2万件以上削除していると主張しています。しかし、Spotifyが独占配信し、社会的にも影響がある人気番組のエピソードについては削除しませんでした。こういった扱いの差に対しても批判があったようです。
ジョー・ローガンの影響力は落ちている?
今回、ジョー・ローガンの番組の人気が問題となっていますが、実はSpotifyの独占配信となってから人気が落ちているのではないかという話題もあります。
以前は、ポッドキャスト番組としてさまざまなプラットフォームで聴くことができた上、YouTubeにも動画がアップされていました。Appleからも月間ダウンロード数が1億9000万件として世界1位のポッドキャスト番組に認定されたことがあります。それがSpotifyの独占配信となり、他のプラットフォームでは聴けなくなりました。
2009年にスタートした『Joe Rogan Experience』は、2013年からYouTubeでも動画の配信を行い、ゲストとのやりとりを見ることができました。しかし2020年12月にSpotify独占となり、YouTubeから一部のクリップを残して削除され、ファンをガッカリさせました。
こうしたことから、番組の人気が落ちたのではないかという憶測が出始めました。同番組に出演したゲストのTwitterのフォロワー数は、これまで出演後に平均で4,000人増えていましたが、最近は数字が半減しているとのこと。こういったことも、人気が下降している証とされています。
これは推測に過ぎませんが、独占配信となったことへの反発はあるようです。
皆さんはプラットフォームの独占配信やプラットフォームの番組に対する責任について、どう考えますか?
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