前回の記事で、Spotifyで独占配信をしているポッドキャスト番組『Joe Rogan Experience』の内容に対する抗議として、ニール・ヤングがSpotifyからの楽曲削除の申し出をした結果、実際に聴けなくなってしまったという話題を取り上げました。その後もジョニ・ミッチェルや、かつてニール・ヤングのバンドメンバーでもあったデヴィッド・クロスビー、スティーヴン・スティルス、グラハム・ナッシュも楽曲の削除に踏み切ったようです。ポッドキャストをきっかけに起きたこの騒動、どうなっていくのでしょうか。
Spotifyユーザーが4億人を突破
これまでもSpotifyが著作権料の支払いなどでアーティストと揉めて訴訟沙汰になったことはあります。ニール・ヤングもかねてからSpotifyの音質の悪さに不満を公言していましたので、そのような経緯も今回の敵対的な対応につながっているようです。
この騒動でSpotifyの株価が12%以上も落ち、40億ドル以上の損失を被ったと言われましたが、ジョー・ローガンが謝罪のコメントを発表。Spotifyも新型コロナ関連のポッドキャストをまとめたページを作成し、幅広い意見を耳にする機会をつくり、注意喚起するなどの対応を発表。数日後には株価が13.5%の急増を見せています。
また、2月2日にSpotifyが発表した決算情報によると、MAU(月間アクティブユーザー数)は4億600万人と、ついに4億人を突破したとの発表がありました。昨年の同時期では3億45oo万人との発表だったので、この1年で5000万人ものユーザーを増やしています。有料会員数も16%増で、実に40%以上(1億8000万人)が有料会員というから驚きです。
具体的な数字はありませんでしたが、ポッドキャストの利用者も2桁増加したとして、リスナーの消費時間におけるポッドキャストの割合も過去最高だそうです。
音楽ストリーミングサイトの世界での加入者シェアは、Spotifyが32%で2位のApple Musicが16%のため、2倍のユーザー数を獲得している状況。3位以下は、Amzon Musicが13%、Tencent Music 13%、Googleが8%と続きます。このSptifyの強さにポッドキャストも貢献しているため、Spotifyもジョー・ローガンの番組への対応を苦慮しているのではないでしょうか。
日本国内のポッドキャスト利用実態調査
ポッドキャストユーザーの調査データは海外のものが多く、日本国内のデータがほとんどありませんでした。そんななか、昨年、株式会社オトナルと朝日新聞社が共同で調査して発表した「ポッドキャスト国内利用実態調査2020」のおかげで、これまで日本国内のユーザーの状況が明らかになりました。
ありがたいことに、今年も第2回となる「ポッドキャスト国内利用実態調査2021」が2月3日に発表されました。毎年この時期に定点観測ができるという意味では、非常に貴重なデータとなっています。調査内容を見てみました。
「ポッドキャスト」を毎月聴くユーザーは、世界43カ国・地域で44.8%にものぼるようです。そんなに多くの人に聴かれているのですね。その中で、日本国内のユーザーはどうなのでしょう。
ポッドキャストを1ヶ月に1回以上聴く人は14.4%とのこと。昨年のデータでは14.2%でしたので、0.2%増加しました。この数は少ないようにも見えますが、日本の人口に換算すると約2,500万人の増加です。
年代別を見ると、昨年は20〜30代が50.8%でしたが、今年は47.5%と減少しています。別の年代のユーザーが増えていると結果になりましたが、それでも20代の男女が占める比率が一番多く、27.5%となっています。
今年は、新たに「ポッドキャストユーザーの職業」という項目が追加されました。ポッドキャストを聴く人と聴かない人を比べると、聴く人の70.6%がビジネスパーソン(フルタイムの就労者)であるのに対し、聴かない人は58.9%でした。それ以外の「契約社員/派遣社員」「パート/アルバイト」「専業主婦/主夫」「無職」は、ポッドキャストを聴かない人のほうが多いという結果でした。
学生を見ると、ポッドキャストユーザーが4.8%、非ユーザーが2.4%となっています。一番多いのは会社員。年齢別では20代が一番多かったので、20代の会社員が一番多いということでしょう。つまり、ポッドキャストを聴いている人のうち、最も多いのは20代〜40代の会社員ということになります。
驚いたのは、ポッドキャストを聴くプラットフォームです。古くからのポッドキャストユーザーは「ポッドキャストはAppleのもの」という印象が強いかもしれませんが、データではSpotifyが一番聴かれているプラットフォームで、Appleのシェアは30%を割っています。
米国では昨年の10月ごろ、ヨーロッパではそれ以前にSpotifyがAppleを抜き、世界トップのポッドキャスト・プラットフォームになったというニュースがありましたが、実は日本でもSpotifyが1番になっていたという状況です。
その他にも人気のジャンルやポッドキャスト番組の探し方のデータ、自由回答のポッドキャストユーザーの声などもあります。興味のある方は、株式会社オトナルのサイトでご覧ください。
ポッドキャストはキャズムを超えるか?
ポッドキャストや音声配信の話題は以前より増えましたが、まだまだ一般化したという実感は薄いでしょう。ただ、良い話題も悪い話題も含めて、Spotifyの影響は大きいようです。現在も行われている広告展開も話題になっていますし、ポッドキャストのアワードなどにも協賛し、Spotifyが日本のポッドキャストを牽引していると言っても過言ではないでしょう。
マーケティングの世界では、製品やサービスを市場に導入したときに、その普及率を見るための「イノベーター理論」というものがあります。情報感度が高く流行に敏感な「新しもの好き」に使われる状況では、その製品やサービスはヒットしません。一般的にヒットしたり定番商品化したりするには、「イノベーター」や「アーリーアダプター」という「新し物好き」の層を超えて「アーリーマジョリティ」という層に伝わることが必要と言われています。
この「アーリーマジョリティ」まで普及してしまえば一般化することができますが、ここを超えるのが難しく、超えることができないまま市場から消えていく製品やサービスは無数にあります。この「アーリーマジョリティ」へ伝わる目安は「キャズム(深い溝)」と呼ばれ、キャズムを超えることができるかどうかが、1つの指標になります。
調査結果によると、国内のポッドキャストユーザー数は14.4%でした。イノベーターとアーリーアダプターの合計である16%は超えていないため、日本国内では「キャズム越え」はできていません。そのため、まだ一般化しているとは言えませんが、数年前に比べると目前に迫っていると言える状況です。
世界のユーザー数は44.8%と、「アーリーマジョリティ」まで達しているいう数字が出ています。世界のポッドキャスト 事情と日本国内での温度差の違いは、この数字からも見えてきます。
世界では完全に定着したポッドキャスト。騒動は起こしつつも、ポッドキャストにまだまだ注力していくとするSpotify。Appleの巻き返しやAmazon Music、Googleなどの追随などもあるので、日本の「キャズム越え」もかなり期待できるのではないでしょうか?
キャズムを超えられるのか、というより「いつ超えるのか」という状況になっているようにも見えます。
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