長い間、ポッドキャストのプラットフォームは Apple Podcasts が業界標準となっていました。そのため、ポッドキャストはAppleのサービスだと思っている人も多いようです。
しかしこの数年、GoogleやSpotify、Amazonなどもポッドキャストに本格参入し、状況が変わってきました。ついにはポッドキャストのプラットフォームのシェアをSpotifyに抜かれるまでになっています。
Googleは2015年頃から北米という限られた地域でポッドキャストへ参入していましたが、全世界に向けてアプリをリリースした2018年に本格参入。Spotifyもそれまで一部の番組で試験をしていましたが、一般ポッドキャストの登録を受付スタートした2018年が分岐点となりました。
Apple Podcasts衰退の理由
ポッドキャストが誕生したのが2004年9月。わずか9ヶ月後の2005年6月にAppleがポッドキャストのプラットフォームを開始しました。現状から考えると驚くほどのスピード感です。最初の数年間は、ポッドキャストの番組表を作成し、ランキングやキュレーションも開始。動画ポッドキャストへの対応、音楽作成ソフトGarageBandでポッドキャスト作成機能を追加するなど精力的でした。
ところが徐々にポッドキャストに対するサービスの改善が行われなくなっていきます。GarageBandからポッドキャストの作成機能が削除されるなど、逆に後退していくようにも見えたことから、古いポッドキャスト配信者からAppleに対する不満や不信感も生まれることになっていました。
そのため、2018年からわずか3年で、13年間のプラットフォームとしてのAppleの牙城がSpotifyに崩されたのも大きな驚きではありませんでした。予想より早かったという驚きだけで、いずれは抜かれるだろうと予想していました。
では、Appleは何もしていなかったかというと、そうではありません。一度、下火になりかけたポッドキャストが再燃した要因の1つにスマートフォンの普及がありました。そのスマートフォンをメジャーな存在に変えたのはAppleのiPhoneでしたが、皮肉なことに、Appleがポッドキャストを疎かにするようになった要因もiPhoneでした。
ユーザーが開発したポッドキャストをAppleのサービスに組み込んだ一番の理由は、音楽プレイヤーのiPodの販売につながると期待してのことでした。ポッドキャストの普及はiPodの購入動機になると見てのことです。実際、そのような側面はあったでしょう。
ところが、2007年、iPodの機能も備えたiPhoneがリリースされると状況が変わります。ポッドキャストなどのサービスで支援しなくても、iPhoneが大ヒットして売れていったのです。ポッドキャストに力を入れる必要性が見出せなかったとも言えます。
有料サブスクリプションを強化するApple
ここから数年間、Appleのポッドキャストへの対応は明らかに悪くなっていました。そのことにユーザーが不満を抱いていたことを、Appleも気付いていない訳ではありません。
転機は音楽ストリーミングサービス「Apple Music」を開始した2015年に訪れました。この頃からAppleは「iTunes」ブランドを使わないようになっていきます。「iTunes Podcasts」は「Apple Podcasts」と名称を変更し、音楽プレイヤーiTunesから独立した単独のサービスとなりました。
SpotifyやAmazon Musicが音楽とポッドキャストを一緒に扱おうとしているのに対し、AppleはもともとiTunesで一緒に扱っていた音楽とポッドキャストを、このとき切り離してしまったのです。もしこの時Apple Musicの中にポッドキャストを組み込んでいたら、今の状況は変わっていたかもしれません。
この2015年の時点で、Appleは ポッドキャストのテコ入れを考え始めて、ユーザーが不満に思っていることを解消しようとしました。新たにApple MusicやApple Podcastsの担当として上級副社長のエディー・キュー氏を据えます。
エディー・キュー氏は当時、Appleの実質No.2とも呼ばれ、問題のあるサービスを再建する仕事人として知られていました。当初は上手く行ってなかった地図やSiri、iCloudなども立ち直らせた経験があります。2016年には米国の人気ポッドキャスト番組の運営者7人を本社キャンパスに招き、Apple Podcastsの問題点を話し合うなど再びAppleがポッドキャストに注力するのではないかと期待させる動きがありました。
一方、音楽ストリーミングサービスでも競合となるSpotifyがポッドキャストに本格参入し、数々のポッドキャスト関連企業の買収を行うなど、かなり注力した結果、プラットフォームの勢力図は変わっていきました。Appleは組織が大きくなりすぎたのか、テコ入れがあまりにも遅すぎました。
6年経った2021年に、ようやくベータ版だった管理画面のPodcasts Connectを正式公開。新たに有料サブスクリプションをスタートさせました。時期を合わせたかのように、Spotifyも有料サブスクリプションを発表し、米国ではAppleより先にスタートさせるという機動力を見せました。ポッドキャストにわずか9ヶ月で乗り出した2004年当時のスピード感があれば違っていたかもしれませんが、Appleは完全に遅れをとってしまいました。
Appleは今後、有料サブスクリプションに注力をしていきそうです。今週発表があったニュースでは、4月から管理画面のPodcasts Connectで、これまで全くのブラックボックスだったポッドキャストのフォロワー(以前の購読者)数を各番組の配信者で確認できるように表示するとのこと。
また、有料サブスクリプションを行うことができるApple Podcasters Programへの参加者には、収益性を高めるようにポッドキャストチームから直接指導してもらえるサービス「Jump Start」を開始するとのことです。
私もApple Podcasters Programに参加しているため、日本でもこのサービスが開始されるかが気になりますが、スタートしたらまたレポートしたいと思います。
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