以前からお伝えしているように、SpotifyやAmazonは番組の独占配信を増やしており、自身のアプリの利用を促して囲い込みを狙っています。ポッドキャストの制作会社を買収し、オリジナル番組なども増やしており、独占配信の番組を増やすことを重要視しているようです。
一方、Appleは一線を画した戦略を取っているようです。Appleでもオリジナル作品を制作していますが、独占配信を行わず、幅広いプラットフォームへの配信をしています(#24参照)。
Appleはポッドキャスト番組を複数持つパブリッシャーに向けて、有料サブスクリプションの機能を提供し、パブリッシャーと共に収益を上げていく方法を強めています。
Apple Podcasts Connectの機能強化
Apple Podcastsの管理画面であるPodcasts Connectの機能強化を4月に行い、フォロワー数の表示を行ないました(#23参照)。その際に、もう1点、有料サブスクリプションを行うパブリッシャー向けにも機能の強化を行っていました。
パブリッシャーは、有料サブスクリプションに登録したユーザーに向けて、ボーナスコンテンツや無料版音声の差し替え版をPodcasts Connectからアップロードして、登録者に提供することができます。
アップロードした音声は、自動的に変換作業が始まり、「デジタル著作権管理(DRM)」で保護されるようになっています。そのため、アップロードできる音源が圧縮を行わない「WAV形式」か、圧縮前の状態に戻すことができる可逆圧縮(ロスレス圧縮)の「FLAC形式」でアップし、必ずステレオ音声でなければいけないとされていました。
例えば、モノラルのMP3ファイルなどで作成していた場合は、sWAV形式のステレオ音声などに変換し直す必要がありました。データサイズも大きくなり、扱いづらかったのですが、MP3ファイルを許容するようになり、MP3ファイルの場合はモノラル音源でもアップロードできるようになりました。
また、Apple Podcastsチームからアドバイスをもらえる「Apple Podcasts Jump-Start」も始めています。
サードパーティのホスティングサービスとの連携強化
Appleが新たに5月16日に発表した内容も、Podcasts Connectの機能強化でした。発表された「Apple Podcasts Delegated Delivery」の内容は、有料サブスクリプションのポッドキャストを提供するパブリッシャーを支援するといういもの。
前出のように、有料サブスクリプションの登録者向けのボーナスコンテンツを配信するには、AppleのPodcasts Connectの管理画面から音声をアップロードする必要がありました。
有料サブスクリプションの番組であっても無料で聴ける音声コンテンツの配信が可能です。その場合、これまで通りそれぞれのホスティング・サービスから無料版の音声を配信することができますが、登録者向けの限定音源のみPodcasts Connectから配信する必要があったのです。
この音源によって2カ所の管理画面からアップロードしなければいけない煩わしさを解消したのが、今回の機能強化です。
提携するホスティング・サービスを使っている場合、登録者向けの音源をPodcasts Connectからアップロードする必要はなく、無料版と同様、各ホスティング・サービスの管理画面からアップロードできるようになりました。
現在、対応しているホスティング・サービスは下記。
- Acast
- ART19
- Blubrry
- Buzzsprout
- Libsyn
- Omny Studio
- RSS.com
対応ホスティング・サービスは今後も増えていくとのこと。 有料サービスがほとんどなので、ピンとこない配信者も多いかもしれませんが、例えばAnchorなどで配信をしていても登録者向けコンテンツだけAppleのPodcasts Connectにログインしてアップロードしなければならず、Anchorのエピソード一覧では表示されないという状況を想像してみてください。それが、いつも使っているAnchorで一元管理できるようになるのですから、便利ではないでしょうか?
なお、無料コンテンツをPodcasts Connectからアップロードすることはできます。いっそのこと、配信元をAppleのPodcasts Connectに一元化するという方法もありますが、ホスティング・サービスとしては後発であるAppleの管理画面は決して使いやすいとは言えません。MP3でのアップロードもようやくできるようになったばかりですし、その場合Apple Podcastsにしか配信されないプラットフォーム限定になってしまいます。
Appleのオープンな戦略
どうやらAppleは、Podcasts Connectの使い勝手を高めて、Apple Podcastsにしか配信されない番組を囲い込むことはしないことに決めたようです。オリジナル作品と同様、プラットフォームの限定は行わず、外部のサービスとの連携を強化し、SpotifyやAmazon Music (Audibleを含む)に対抗をしていくようです。
プラットフォームとしてユーザーを囲い込み、配信者にとっての魅力を高めるという方向性ではなく、有料配信者の利便性を高めていくところで収益を上げようとしており、配信プラットフォーム自体はオープンな姿勢をとっているようです。
ちょうど、バラク・オバマ元大統領とミシェル夫人がSpotifyとの契約を終了するというニュースがありました。
2019年にオバマ氏がポッドキャストを始める際、Spotifyと独占契約を行ったことは話題になりましたが、今回契約を終了する一番の理由が、この「独占契約」への不満でした。オバマ氏はより幅広いプラットフォームへの配信を望んでいましたが、Spotifyと折り合わず、契約を終了することになったようです。契約は2022年10月までとなり、その後は非独占取引で契約できるところを探して交渉中のようです。
独占契約を強化していくSpotifyと、独占契約は行わずオープンな戦略をとるApple。どちらが今後伸ばしていくでしょうか。
なお、今回の「Apple Podcasts Delegated Delivery」は、秋頃からスタートする予定で、時期や各プラットフォームの対応方法などはAppleの推奨ホスティング・サービスを紹介するページで発表していくそうです。
Podcast hosting providers(https://podcasters.apple.com/partner-search)
余談ですが、以前はこのページに日本のサービスとしてSeesaaブログが入っていたのですが、なくなってしまったようです。現状、日本のホスティング・サービスはAppleの推奨に入っていない状況で寂しいところです。また、ここにAnchorも入っていないので、Spotifyとの勢力争いの一端が垣間見れます。
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