2004年9月に生まれたとされる「ポッドキャスト」は、来年2024年に20周年を迎えます。
これまで取り上げたように、一時期は動画共有サービスなどの隆盛に鳴りを潜めていましたが、2014年頃から欧米で再燃し始め、日本でもこの1~2年で再び盛り上がりを見せてきました。
2023年はYouTubeが正式にポッドキャスト対応し、動画とポッドキャストの垣根がやや低くなったのも大きい変化ですが、個人的な最大のトピックは「LISTEN」というWebサービスの登場でした。
AIでポッドキャストの文字起こし
今年はChatGPTが一般的に使われるようになって、AIが一気に自分たちの仕事や生活に入り込んできた年でしたが、ポッドキャストの世界にも影響がありました。そのChatGPTを提供するOpenAI社が発表したAIによる音声認識モデル「Whisper」をベースに、ポッドキャストを文字起こししてくれるWebサービスが日本から登場しました。それが「LISTEN」です。
LISTENは、株式会社ONDとLISTEN PROJECTが運営するサービス。ONOの代表取締役社長は、はてな株式会社の創業者でもある近藤淳也氏であり、初期の開発はほぼ近藤氏によるもの。人力検索はてなや、はてなブックマーク、はてなブログなど日本のインターネット・コミュニティにも精通した近藤氏による新しいプロジェクトでもあります。
4月からのベータ版を経て、6月に正式リリースされたLISTENですが、使ってみると期待以上に日本語の変換も精度が高く、文字起こし機能以外も十分に備わり、日本のポッドキャストを再構築していく可能性を感じます。
英語などに比べて文字起こしが難しい日本語ですが、そもそもOpenAIのWhisperは日本語の精度も高いという評判でした。LISTENではさらに独自のチューニングを行い、高い精度での文字起こしを実現しています。とはいえ、100%完璧ということはなく、修正が必要ですが、それでもポッドキャストで話している内容を把握するには十分なクオリティです。
これまでのポッドキャストは検索性が低く、興味のある話題を話しているポッドキャストが見つかりにくいという面がありました。LISTENの登場で、ポッドキャストとの出会い方、コミュニケーションの取り方に変化が出てきています。
ポッドキャストの新しい体験を提供
LISTENのサービスを使ってみると、ポッドキャストで話した内容が可視化されるだけでも新しい体験ではありましたが、さらに驚いたのは、その開発スピードの速さ。ベータ版の時からDiscordでのサポートが行われ、そこで挙げられた要望や不具合報告にどんどん対応し、機能がどんどん増えていくということでした。
私自身も、何ヶ月後には対応してくれたら良いなという思いで「検索機能が欲しい」という要望を挙げましたが、数日という短期間で実装され、そのダイナミックさに一気にファンになってしまいました。
LISTENは文字起こしするだけではなく、文字起こしされた文章をクリックすると、その位置から音声が再生して聴くこともできます。また、エピソードごとにスターやコメントをつけることもできるため、エピソード毎にリアクションが取りにくかったポッドキャストにとって、配信者とリスナーとのコミュニケーションの支援にもなっています。
サイト内の検索もできるのは便利ですが、配信者が設定すれば検索不可にするオプションが用意されていますし、Googleなどの検索エンジンに検索されないようにもできます。
海外のWebサイトにも、ポッドキャストを聴き、エピソード毎にコメントしたり評価をするサイトはありました。これまで日本ではあまり利用されませんでしたが、こういったサービスが日本から登場したことにより、ポッドキャストをコミュニケーションがとりやすいサービスと認識されていく可能性が高まったことに、非常に価値を感じました。
文字起こしサービスではなくなったLISTEN
LISTENは驚くほどのスピードで機能が追加され、この原稿を書いている最中にも次々と機能が増えて紹介しきれないくらいです。
「文字起こしサービス」は、もともと外部のポッドキャストをRSSで読み込んで文字起こしをするサービスでしたが、LISTENからポッドキャストを配信するホスティング機能も実装されたのは大きな転換でした。ホスティングしているポッドキャストは、非公開、限定公開、フォロワー限定公開など公開範囲を指定することができるようになってます。
また、かつてのブログサービスにあったトラックバック(言及機能)やハッシュタグ機能、ハッシュタグ毎のRSSの提供などもあり、海外のWebサービスに比べると、その設定のきめ細やかさなどに日本らしさも感じます。
10月には「文字起こしだけのサービスではなくなった」という状況が公式に宣言されました。もちろん文字起こしを止めたということではありません。文字起こしにこだわらず、総合的にポッドキャストをサポートするサービスになる覚悟のようにも感じました。
日本のポッドキャストを次のステージに再構築
最初の文字起こしの機能から考えると、正式リリースの6月からわずか半年で驚くほどの機能追加がされています。コミュニティ機能だけではなく、ユーザーによるコミュニティも大きくなっていると感じます。ユーザーから「声日記」というジャンルも生まれ、気軽に毎日配信する番組も増えています。
ユーザーからの反応にすぐに応えて開発に反映するところや、機能の設定の細やかさ、コミュニティによるLISTENを盛り上げようという動きは、これまでの海外を中心に動いていたポッドキャストや、日本での独立系配信サービスとも一線を画し、大袈裟に言えば日本らしいポッドキャストを再構築しているように見えます。
新たに有料プランも発表され、今後も有料プラン向けの機能も増やしていくというコメントもあり、2024年もその動きから目が離せません。
ポッドキャストの配信者であれば、まずはユーザー登録をしてご自身のRSSを登録するだけでもメリットがあると思いますし、これからポッドキャストを始める方も配信サービスの1つとしておすすめですします。今後もLISTENに期待です。