このコーナー、お久しぶりの更新です。以前「別冊マイカ」で「ミステリ倶楽部」を担当していた白井さんは、今もSNSで定期的にミステリ情報を投稿していらっしゃいます。白井さんの投稿によく出てくる「楠谷佑」という作家が気になり、読んでみることにしました。
楠谷佑さんの名前は「くすたに・たすく」と読みます。読み仮名をつけるとすぐにわかるように、名前自体が回文になっています。全く関係ありませんが、私は高校時代「みかという名前を回文にするなら神谷美加(かみや・みか)だね」と言われたことがあります。もし私がミステリ作家になっていたら、この名前がペンネームになるところでした……。
楠谷さんは高校在学中、「小説家になろう」に投稿してプロ作家になったという経歴の持ち主。イマドキですね。
ところで「なろう系」というと「ああ、ざまあ系とか転生ものとか、そういう話なんでしょう」と思われる方が多いと思いますが、そんなことはないんですよ。以前はプロ作家になりたいと思ったら公募ガイドを買って自分の作品を投稿するのが王道(?)でしたが、それが今は「なろう系」と考えてもいいんじゃないかと思うほどメジャーな存在なんです。実際、出版社が出資していたりしますしね。この状況に批判的な目を向ける風潮もありますが、私は「おもしろいorいい作品であれば、どこ出身でも構わない」派です。「本好きの下剋上」も「薬屋のひとりごと」も大好きですし。
閑話休題。楠谷さんの話に戻します。まず「無気力探偵」から。目を惹かれるのはタイトルでしょう。気力が無い探偵がどうやって事件に関わっていくのかが気になり、読んでみることにしました。Kindle Unlimitedに入っていれば無料で読めるのもあって気軽に手に取って読み始めたのですが、キャラ設定や表紙デザインに一瞬躊躇したことは正直に告白しておきます。「なろう系に偏見を持ってはいけない」と云いつつ、私の中にもラノベに対する偏見があったようです。しかしいざ読み始めてみると、そんな不安は払拭されます。白井さんもSNSで書かれていましたが、本格派の手応えを感じる作品でした。
探偵役である智鶴くんはまだ学生で、授業中もすぐに寝てしまうほど無気力な日々を過ごしています。当然、できれば面倒な事件には巻き込まれたくないと願っていますが、なぜかそうならないところはミステリのお約束ということで。本人は全く探偵のつもりがないところも、少し頼りない刑事から頼りにされてしまうところも、「家政夫くんは名探偵」シリーズに通じるところがあります。それにしても智鶴くんといい、「家政夫くんは名探偵」の光弥くんといい、どうしてこんなにちょいちょい事件に巻き込まれてしまうのか……。
「家政夫くんは名探偵」は4冊出ていて、それぞれ季節の名前がついています。順番的には秋→冬→春→夏となっているのですが、表紙を見てもわかりにくいかも。それぞれ別の話になっているので、この順番に読まなくても大丈夫なんだけど、登場人物やサイドストーリーの流れはあるので、できればこの順番で読んだほうがよさそう。こちらもKindle Unlimitedに対応しているため、登録している人は無料で読めます。
光弥くんは観察眼がとても鋭くて、ちょっと「アストリッドとラファエル」のアストリッドを思い出します。感受性が豊かなところもアストリッド寄りかな。ちなみに光弥くんは家事代行サービスで仕事をしていますが、なぜか周囲の人は「家政夫さん」と呼びます。光弥くんは「なぜ家政夫と呼ばれるんだろう」と頭をひねりますが、「家政婦は見た」の影響でしょうね。
「家政夫くん」と「無気力探偵」はどちらも短編集なので、ちょっとした隙間時間に読み進められます。「読書時間をがっつり確保するのは難しいけど、通勤通学時間を利用すれば」という方は、お手にとってみてはいかがでしょうか。
私は今「家政夫くんは名探偵」の夏版を読んでいて、もうすぐ終わりそう。このあとは、いよいよ「案山子の村の殺人」に進もうと考えています。実は白井さんには「まず案山子を読んで」と言われていたのですが、つい失念して「無気力探偵」から着手してしまいました。せっかくアドバイスしてくださったのに、ごめんなさい。