自尊心と山月記

レビュー&コラム

いつものようにダラダラとSNSを見ていたら、こんなポストを発見。

国語の教科書から『山月記』がなくなるそうだ。それが本当だとしたら、学生はどうやって自尊心を学ぶのだろう。だいたいの人が、あれで学んでいるのではないか。

おお、山月記! いいですよね、山月記

※まだ読んだことがないという方は、こちらのリンク先をどうぞ青空文庫ですので無料で読めます。

ン十年前に国語の教科書でこの話を初めて読んだとき、とても衝撃を受けたことを覚えています。主人公の李徴は、類いまれなる詩の才能に恵まれながらも、完璧を求めすぎるクセがあり、さらに悪いことに他人の評価を極端に気にする性格だったため、挫折して虎になってしまったんですよね。

虎になった李徴は、偶然、昔の友人と出会います。彼は、友との出会いを懐かしみながらも、かつての自分の行いを悔いつつ「我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心との所為(せい)である」と告白します。虎になってはじめて自分の弱点と素直に向き合えるようになるだなんて、なんて皮肉な。そして残酷な。

最後に妻と子のことを頼むシーンも堪えます。「飢え凍えようとする妻子のことよりも、己おのれの乏しい詩業の方を気にかけているような男だから、こんな獣に身を堕おとすのだ」というセリフを読んで、胸を痛めない人なんているのでしょうか。

そんなことをしんみり思い出しつつ、なんとはなしにポストのコメントを眺めていたら、こんなひとことが目に飛び込んできました。

歌うエジソン

その瞬間「歌うエ、ジソン、自尊心♪」という歌詞が頭に浮かび、李徴への思いが彼方に吹っ飛んでしまいました。なんてこと! 私の感傷をどうしてくれる!

怒りついでに秋葉さんにこの話をしたところ、彼はひとこと「そもそも自尊心なんて学ぶ必要あるの?」。……まあ、たしかにそうなんだけどね。

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

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