『チャーリーとの旅』(ジョン・スタインベック)

スタッフコラム

2024年11月15日、ジョン・スタインベックの『チャーリーとの旅』が文庫本として出版された。これは、1962年にスタインベックが愛犬チャーリーと共にキャンピングカーに乗り、34の州、約16000kmを旅し、「アメリカはどんな国なのか」を探求した旅の記録だ。その年の10月、スタインベックはノーベル文学賞を受賞した。その話題性も手伝って、本書は出版当時、「アメリカの多様性と社会問題を鋭く描写した傑作」として高い評価を得た。

それにしても、半世紀以上の前に出版された作品が、なぜ今、文庫化されたのだろう。そんなことを思いながら本のオビを見ると、「1960年秋 大統領選挙直前。迷走しながら見たアメリカ」と大きく書かれていた。

「大統領選挙」という文字を見ると、先日の大統領選挙のことを思い出す。カマラ・ハリス氏との激戦の末、ドナルド・トランプ氏が再選された。彼のキャッチコピーである「Make America Great Again」は、1900年頃の偉大なアメリカへの回帰を示唆している。

先に書いた通り、『チャーリーとの旅』はアメリカの自己理解を探求する旅の記録だ。1960年代初頭と現代では社会状況が大きく異なるものの、共通点もある。たとえば1963年にはジョン・F・ケネディが狙撃され、1965年にはベトナム戦争への本格介入が始まった。当時のアメリカが直面した危機や分断は、現代のアメリカが抱える諸問題に通じるものがある。

そう考えると、本書は旅行記の枠を超え、現代アメリカが直面する課題を歴史的文脈から理解する上で貴重な視座を提供する一冊といえるかもしれない。スタインベックが60年前に見つめた「アメリカはどんな国なのか」という問いは、今もなお生き続けているのだ。

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

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