「品の良さ」とは

スタッフコラム

私の友人に、「品の良さ」を感じさせる人がいます。特に高価なものを身につけているというわけでもなく、特別に上品な言葉遣いでもありません。しかし、その人を見ていると、しみじみ「品がいいってこういうことなんだなあ」と感じます。彼女の品の良さは、一体どこからくるのでしょうか。

彼女の周辺には、いつもどこかゆとりのある、心地よい空気が漂っています。この心地よさはどこから生まれるのだろうと観察していると、彼女の動作にはいつも「余白」があることに気づきました。一つの動作と次の動作の間に、わずかな間(ま)を置く。話すときも、相手の言葉が終わってからほんの少し間を置いて返答する。その小さな余白が、心地よさを生み出しているように感じます。

この「余白」は、単なる時間的な間隔ではありません。おそらくそこには、心の中の余裕や相手を受け止める空間、状況を見極める間などが含まれています。絵画や書道で「余白」の重要性について語られますが、人の立ち居振る舞いにおける余白もまた、その人の周囲に大きな影響を及ぼしているのでしょう。その「心地よさ」が、彼女の「品の良さ」につながっているのかもしれません。

この余白の価値は、仕事の進め方にも表れます。一度に複数の仕事を並行して進める人と、一つずつ丁寧に取り組む人がいます。一見すると前者の方が効率的に見えるかもしれません。しかし後者の仕事の進め方には、あの大事な「余白」があります。その余白は一つの仕事に向き合う集中の時間であり、次の仕事に移る前の小さな準備の間であり、ミスを防ぐための確認の余地であり、予期せぬ事態に対応できる余裕として機能しているのです。

効率や生産性が重視される現代社会において、「余白」を持つことは、ある意味で贅沢かもしれません。だからこそ、その価値は一層高まっているように思います。余白のあるふるまいは、過密なスケジュールの中の小さな休息や、絶え間ない情報の流れの中の静寂で、常に求められる即応性の中の熟考の時間として有効に機能するのではないでしょうか。

さて、友人の話に戻ります。私が彼女を見て「品がある」と感じる時、その本質にあるのは、彼女の「余白を持つ力」なのかもしれません。とすると、「品の良さ」とは自分と世界との間に適切な余白を保つ技法とも考えられます。それは意図的に作り出すものではなく、日々の生活の中で少しずつ、自然と身についていくもの。かくありたし、と思うものの、日々バタバタと余裕なく走り回っている私には、永遠に縁のない境地のように思えて…ああ、切ない。

井上 真花(いのうえみか)

井上 真花(いのうえみか)

有限会社マイカ代表取締役。PDA博物館の初代館長。長崎県に生まれ、大阪、東京、三重を転々とし、現在は東京都台東区に在住。1994年にHP100LXと出会ったのをきかっけに、フリーライターとして雑誌、書籍などで執筆するようになり、1997年に上京して技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「マイカ」を設立。主な業務は、一般誌や専門誌、業界紙や新聞、Web媒体などBtoCコンテンツ、および広告やカタログ、導入事例などBtoBコンテンツの制作。プライベートでは、井上円了哲学塾の第一期修了生として「哲学カフェ@神保町」の世話人、2020年以降は「なごテツ」のオンラインカフェの世話人を務める。趣味は考えること。

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