おめでとう、子供たち。

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 夕方、学校を終えた子供たちが街に溢れる前に、ほんのちょっとだけ街にでることもある。雨ざらしにしていたマウンテンバイクはチェーンが錆びていて、ペダルを踏むたびに、沈みかけたタイタニック号のような悲鳴をあげる。道行く人が全員、その音に振り返るような気がして、身がすくんだ。
 行きつけの場所は、本屋か、CDショップだ。昔よく行っていたレンタルビデオショップには、万引きで捕まって以来、ほとんど行っていない。
 食事は一日二回。昼食のあとは、軽い夜食をとるだけ。風呂はめんどくさいので、シャワーを浴びるだけ。夏から伸ばし放題の髪は、指でつまんで伸ばせば、鼻の頭までとどく。散髪にはいかない。髪をいじられているあいだ、あれこれ話し掛けられるのがウザいから。このところ、なんでもかんでもウザく感じるけれど、人と話をするのがいちばんウザい。
 誰とも口を聞かないまま日が暮れることなんて、ざらだった。最初は少しだけ感じていた退屈も、そのうちまったく感じなくなった。何もすることがない、と感じたとたんに、とろりとからだじゅうの毛穴から染み出すみたいに睡魔が襲ってくる。そのくせ、どれだけ眠ってもたっぷり眠ったような気になれず、からだのまわりを見えない霧のように倦怠感が覆っていた。

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