おめでとう、子供たち。
4
まどろみから耕治を引き上げたのは、枕もとで鳴っている十六和音のラルク・アン・シエルと、ドアをノックする音だった。
「コウくーん、起きてるっすかー。ここ開けてー」
姉の、弘美の声だった。目をこすりながらベッドの上にからだを起こし、枕もとの時計を見る。三時間しか眠っていない。時計のとなりで、ピングーのストラップをつけた弘美の携帯が、ちかちか点滅している。
耕治がみつめているうちに、その点滅がふっと消えた。耕治は舌打ちした。弘美の部屋に返しておくのを、うっかり忘れたらしい。
耕治は起き上がった。ドアを開けると、すぐに弘美が顔を出す。すでに制服に着替えていて、肩まで伸びた髪もセットは終わっていた。
「携帯、かえして欲しいっす」
「ああ」
「ああ、じゃないっすよ。勝手に人の物持ち出しちゃダメですってば」
耕治の手から携帯を奪いとり、弘美は携帯のディスプレイをみつめながら、すばやく親指を動かした。
「時計、あわせたかったんだよ。時報だけ聞いた」
「そんなの、下に行って家電話でかければいいじゃないっすか」
「下りるのめんどい。さっきの電話誰から? ボーイフレンド?」
「企業秘密っすー」
つづきを読む
目次に戻る
トップに戻る