おめでとう、子供たち。
13
「食事してる人の顔をじろじろ見るのは、あまり良くない趣味だよ、坊ちゃん」
顔も上げずに、タカコさんがそう言った。“悪趣味”扱いされるのは、今日はこれで二度目だ。
「母さんと似てないなぁ、って思ってたんです」
言ってしまったあとで、ずいぶんと失礼なことを口にしたのだと気づいた。だが、タカコさんは怒る様子もなく。
「ずいぶんと忙しいみたいだね、彼女も」
「ええ……あの、母さん、ぼくのこと何か言ってましたか?」
「いや、何も。ああ、そういえば昨夜きみが寝てる間に、伊丹さんが尋ねておいでだったよ」
「おじさんが?……なんの用だろ」
「広島の牡蠣を届けに。夕食は期待しておいで。牡蠣フライをつくってあげよう。どうせ、ナマはキライだろ」
まさか、それだけの用事できたわけではないだろう。
耕治は椅子の上に座り込んだまま、両膝をあげて手のなかに囲い込んだ。からだを丸くする、いわゆる体育座り、というやつだ。
「その座り方、癖なんだねぇ」
タカコさんはそう言い、言い終えたあともぽかんと口を開いている。いかにも、それ以外に何か言いたげだ。行儀がわるいとでもいいたいのだろう。耕治は無視した。
「タカコさん、本当は伊丹のおじさん、何かいってたんでしょ?」
タカコさんはちょっと首を傾け、考え込んでから。
「耕治くんの様子はどうだって。学校にはまだ行ってないのか。落ち込んでるんじゃないか。その他もろもろ。あとは自分で想像すれば」
耕治は深々と、自分の膝めがけて息を吐き出した。
「なんだ、偵察か」
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