Vol.02 思い出なんて
「同窓会に出席するような年になったんだね、私たち」
彼はグラスをもったまま、うなづいた。
「で、奥さんとは何処で出会ったの? 今年で結婚何年目?」
「結婚したのは…32の夏。ざっと4年前か。まだそんなもんだ」
「へーそうなんだ。うちは今年で14年目。子供はもう小学生よ」
ふっと笑った。そう、時間はどんどん過ぎていく。あの頃のことなんて、年に一度だって思い出しやしない。
「そう、おまえが結婚したって聞いてな。口惜しかったよ、正直いって。どこにいたっておまえにはオレしかいない、いつか再会して結婚するんだと、一人で決めてたからな」
「…んな訳ないじゃん。再会するったって、こうやって同窓会でもなけりゃ」
「うん、だよな。でもな、オレは勝手にそう信じてたんだ。おかしくてもなんでも」
昔と同じ目で、私を愛しそうに見る彼。暑い夏の日、校庭を走る彼と、彼を目で追っている私。あの頃と変わらない、彼のやさしい微笑み。ずっとずっとこのやさしい笑顔の隣にいようと、あの時決めていたはずなのに…。
「いや、おまえを責める気はないよ。大学で恋人ができたと聞いたときは、相当参ったけどな。でも今、幸せそうなおまえを見て、あれでよかったんだなって…」
「幸せそうなんて…まあ、その通りなんだけどね」
まるで幸せでなければよかったみたいな、私の台詞。
「ん、これでよかったんだな、オレ達」
自分に言い聞かせるような、彼の台詞。
その時、携帯電話の呼び出し音が鳴った。彼は、胸ポケットから携帯を取り出した。
「なんだ、うちのか。…ちょっと失礼」
携帯をもったまま、席をはずす彼。私は一人、テーブルに取り残された。
「…全く、あっけないんだから。携帯くらい、無視すればいいのに」
一人で文句をいいながら、タバコを取り出して火をつけた。
口惜しいから、ちょっとだけ彼に気持ちが傾いたことは内緒にしとこう。
何度か煙をふかした後、タバコを灰皿に押し付けた。何度も何度も、火を消した。
せえの、と席を立ち、ドアのそばに立って携帯を持ったまま背中を丸めている彼に軽く会釈。背中を向けたまま、小声でつぶやいた…。
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