Vol.03 SWINGマニア
あったかいね、あなたの胸は。しみじみ懐かしい。
隣でまどろんでいる彼の顔をじっと見つめると、彼は顔をそむけた。
「とうとう、朝になっちゃったね」
「そうだね。ごめん、どうもオレって…だめだよな」
ベッドサイドに立てかけてある写真立てには、仲良さそうな彼と彼女。
私の視線に気づくと、彼は慌てて写真立てを倒した。
「馬鹿ねえ…。気にするわけないじゃん」
わざと、もう一度写真立てを起こした。
写真の彼の隣には、スラッと背の高い美女が写っていた。
彼女は私の友だち。こいつの恋人が、まさか彼女だったとはね。
「桐子が相手じゃ、勝負する気にもなれないよ」
私を見る彼の、複雑な表情。哀れんでいるような、申し訳なさそうな。
そんな目で見られるのがいやで、わざと彼に背を向けた。
寝返りをうつと、ベッドがきしむ。
「もう…もっといいベッド買いなさい。こんなんじゃ、桐子がかわいそう」
怒ったのか、彼はもう返事もしない。
ベッドから降りて、CDプレイヤーの側に立った。
プレイボタンを押すと、椎名豊のピアノの音。
あなたの趣味ね。Swingすること。
いつでもどこでも、Swingすること。
つづく…
1つ前のを読む
トップに戻る